高齢者の元気を守るフレイル予防の知恵|食事・運動・生活習慣を考える実践ポイント

フレイルとは何か?加齢による変化とその先にあるリスク
1-1フレイルの3つの側面
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身体的フレイル
筋力の低下や歩行速度の減少など、身体の動きに関する衰えが見られる状態です。転倒や骨折のリスクも高まります。
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心理・認知的フレイル
うつ傾向や意欲の低下、物忘れなど、精神面・認知機能の衰えが見られる状態で、社会的孤立にもつながりやすくなります。
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社会的フレイル
一人暮らしや外出機会の減少により、地域とのつながりや交流が薄れることで起きる「社会的な虚弱」です。
これらの要素は単独で起こるのではなく、相互に影響し合いながら進行します。たとえば、筋力が落ちて外出が減ると、会話や活動が減り、心の元気もなくなっていくというような「負の連鎖」が生じやすくなります。
1-2フレイルのチェックポイント
では、自分や家族がフレイルの状態にあるかどうかを見極めるには、どのような点に注意すればよいのでしょうか。以下の5項目のうち、3つ以上が当てはまる場合、フレイルの可能性が高いとされています。
チェックポイント
- 体重がこの半年で2~3kg以上減った
- 以前より疲れやすくなったと感じる
- 日常的な活動(掃除、買い物など)が面倒に感じる
- 歩くスピードが遅くなった
- 握力が弱くなった、ペットボトルの蓋が開けづらい
これらは、気づかないうちに進行することが多いため、日々の小さな変化に気づく視点が重要です。家族や周囲の人が気づいて声をかけてあげることも、大きなサポートになります。
1-3回復できるからこそ、予防が価値を持つ
「フレイル=老化による不可逆な衰え」と思われがちですが、実際は適切な対策で健康な状態へと戻すことが可能です。これこそがフレイルの最大の特徴であり、希望を持てる点でもあります。
以下のようなアプローチが、回復や予防の基本です。
- 栄養バランスを整えた食事
- 適度な運動、特に下半身の筋力維持
- 外出や人との会話、趣味活動の継続
- 口腔ケアや噛む力の維持

特に、食べる・動く・つながるという3つの柱を意識して生活を整えることが、介護に頼らず自立した暮らしを続ける鍵となります。
1-4フレイルを恐れず、知識を力に変えていく
高齢になることは誰にとっても自然な流れですが、その変化に対して正しい知識と具体的な対応策を持っていれば、心配しすぎる必要はありません。
フレイルは「病気」ではありません。生活の中で自分の力を取り戻すきっかけとも言える段階です。まずはその概念を知り、自分自身や家族に当てはめて考えてみることが、予防と回復への第一歩になります。
食べて防ぐフレイル予防|エネルギー・たんぱく質・栄養バランスの基本
その結果として、エネルギー摂取量の不足や栄養の偏りが起き、筋肉や骨、内臓といった身体の構造そのものが弱ってしまいます。こうした変化が続くことで、「気づいた時には立ち上がるのもおっくう」と感じる状態になり、フレイルの悪循環が始まります。

2-13大栄養素の基本を見直すことが最初の一歩
まず押さえておきたいのは、糖質・脂質・たんぱく質という「三大栄養素」の重要性です。これらはすべてのエネルギーや体の材料になる基本成分であり、高齢者にとっても必要量が大きく変わるわけではありません。
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糖質(主食)お米やパン、いも類に多く含まれる糖質は、脳や筋肉のエネルギー源として欠かせません。毎日こまめに補給する必要があります。
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脂質(油・乳製品)肉や魚、ナッツ、乳製品などに含まれ、ホルモンや細胞膜の材料にもなります。適量を守って摂ることが大切です。
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たんぱく質(主菜)筋肉、内臓、免疫細胞の材料。加齢により消化吸収力が低下するため、量と質の両面から意識する必要があります。
特に高齢者では、加齢によって基礎代謝が低下し、活動量も少なくなる傾向にあるため「そんなに食べなくても大丈夫」と思い込んでしまうことがあります。しかし、体の構成要素を維持し、感染症やケガからの回復力を保つには、必要な栄養素をしっかり摂ることが不可欠です。
2-2たんぱく質は「質」と「吸収効率」がポイント
たんぱく質は単なる筋肉の材料ではなく、ホルモンや酵素、免疫細胞など身体の機能を支えるあらゆる部分に関与しています。特に高齢者にとっては、サルコペニア(加齢性筋肉減少症)を防ぐためにも不可欠な栄養素です。
推奨量としては、「体重1kgあたり1.0g以上」が基本です。体重50kgの方なら、1日50g以上を目安にすると良いでしょう。これは、通常の食事のなかで達成可能な量ではありますが、「主菜が少なめ」「朝食を軽く済ませる」などの習慣があると、知らぬ間に不足してしまうリスクがあります。
また、重要なのはたんぱく質の種類と吸収効率です。たとえば卵は体内でのたんぱく質利用効率が非常に高く、牛肉や魚を上回るとされています。さらに最近では、大豆や豆乳などの植物性たんぱく質も注目されており、「低脂肪・高栄養・アレルゲンが少ない」といったメリットから、毎日の食卓に取り入れやすくなっています。
調理の工夫によって吸収率を高めることもできます。たとえば野菜のビタミンと組み合わせたり、油を使った調理で脂溶性ビタミンの吸収を助けたりすることで、効率的に摂取が可能です。
2-310食品群を活用した栄養チェック
「毎日何を食べたら良いか分からない」「つい似たようなものばかり食べてしまう」といった声に応えるのが、10食品群チェック法です。これは、以下の10種類の食品群を日々の食事に意識して取り入れるという方法です。
- 肉類
- 魚介類
- 卵類
- 大豆製品
- 牛乳・乳製品
- 野菜類
- 海藻類
- 果物
- いも類
- 油脂類

これらのうち、1日に4群以上、できれば7群以上を摂取できるよう心がけると、自然と栄養バランスが整います。チェックシートに丸をつけるだけの方法なので、介護施設や地域の食育講座などでも広く活用されています。
2-4ビタミンDと日光浴の意外な関係
たんぱく質に加えて、ビタミンDもフレイル予防に欠かせない栄養素の一つです。ビタミンDは、骨の健康に直結するだけでなく、筋力の維持や免疫力の調整にも関与しています。
日本人は食事からのビタミンD摂取量が不足気味であるとされ、特に高齢者は紫外線に対する皮膚の反応が弱まるため、屋外での日光浴の機会が重要です。1日15分~30分ほど、顔や手足に日光を当てるだけでも、ビタミンDの合成が促されると言われています。
食材としては、きのこ類(干ししいたけなど)や魚類(さば・鮭・いわしなど)に多く含まれます。脂質と一緒に摂ることで吸収が高まるため、炒め物や味噌煮、ソテーなどにすると効率的です。
2-5食欲が落ちた時にできる工夫
高齢になると「疲れて食べたくない」「準備が面倒」「噛むのがしんどい」といった理由で、食事量が減ってしまうことがあります。こうした場面においても、少量高栄養の工夫をすることで、無理なく栄養を補うことができます。
- おかずに卵やチーズ、豆腐などをプラスワン
- スープや味噌汁に肉・魚・きのこを加える
- ヨーグルトやプリンにプロテインパウダーを混ぜる
- 市販の高栄養ゼリーや栄養補助食品を常備する

また、料理の手間を減らすために、冷凍カット野菜や缶詰、レトルトパックを活用するのも有効です。忙しさや体調に応じて「手を抜く工夫」も、続けるための知恵として積極的に取り入れていきましょう。
2-6「食べること」を前向きに楽しむ姿勢が、すべての出発点
フレイル予防のための食事は、制限するのではなく「元気を支えるために積極的に食べる」という発想が大切です。カロリーや脂質を控えすぎることが、逆に低栄養やサルコペニアの原因になってしまうこともあります。
一人で食べるのがつらいと感じるなら、地域のサロンやデイサービスでの共食、家族と時間を合わせて食べることも立派な食育です。「食べることは生きること」──その原点に立ち返ることで、自然と前向きなエネルギーが湧いてきます。
栄養素の知識と食事の楽しみ。その両方を持ち合わせることが、長く健やかに暮らすための第一歩になるはずです。
「噛む力」が健康を支える|オーラルフレイルと口腔ケアの重要性
フレイルを語るうえで忘れてはならないのが「オーラルフレイル」という視点です。これは口腔機能の衰えを中心とした健康低下のサインであり、見逃されやすい一方で、全身の健康状態にも深く関わる重要な要素です。

「食べることが減った」「あまり噛まずに飲み込むようになった」「話すのが億劫になった」といった行動の裏側には、口腔機能の低下が隠れている場合が多く、それが栄養摂取や社会性、筋力維持に連鎖的な悪影響を及ぼします。
3-1オーラルフレイルとは何か?
定義と背景
「オーラル(口腔)」と「フレイル(虚弱)」を組み合わせた概念で、噛む・飲み込む・話すといった口の機能が衰えることを指します。
症状の例
- 滑舌が悪くなる
- 少しのことでむせる
- 食べこぼしが増える
- 硬いものを避けるようになる
こうした変化は一見「年齢のせい」と見過ごされがちですが、食事の楽しみや社会的交流の低下にも直結しており、フレイルの進行を加速させるリスクをはらんでいます。
3-2オーラルフレイルと全身のつながり
口腔機能の衰えは、単なる「食べにくさ」にとどまりません。噛む力が落ちれば、食材の選択肢が減り、たんぱく質やビタミンを含む食品の摂取が難しくなります。すると、栄養バランスが偏り、体重や筋肉量の低下を招く可能性が出てきます。
また、発話能力の低下によって外出や会話の頻度が減り、社会的孤立につながることもあります。オーラルフレイルは身体的・心理的・社会的フレイルのすべてに連動する「起点」になりやすいのです。
特に高齢者においては、口腔内の状態が健康寿命を大きく左右するということが、近年の研究でも明らかになってきました。
3-3口の筋肉は「使えば衰えにくい」
オーラルフレイルの予防において最も大切なのは、「口の筋肉は使えば鍛えられる」という前向きな理解です。
- 食事の際によく噛む(左右の奥歯で均等に)
- 口の体操(あいうえお発音練習や舌回し)を日課にする
- 家族や友人との会話を増やす
- 歌を歌うなど、声を出す習慣を持つ
これらは特別な道具や時間を必要とせず、日常生活のなかで簡単に取り入れられます。口の筋肉を積極的に使うことが、咀嚼力や飲み込み力の維持に大きく役立ちます。
3-4口腔ケアは「毎日のセルフケア+専門的サポート」で
オーラルフレイルを予防・改善するには、日々のセルフケアと歯科専門職による支援の両輪が必要です。以下に具体的な対策をまとめました。
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歯と義歯の清掃就寝前と朝の2回、歯ブラシで丁寧に歯垢を取り除きましょう。義歯の方は専用ブラシでの洗浄と、寝るときの取り外しを忘れずに。
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唾液腺マッサージ耳下腺・顎下腺・舌下腺を指で優しく刺激し、唾液の分泌を促進することで、口腔内の乾燥や炎症を予防します。
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口腔の保湿対策加湿器の使用や、水分補給、口腔ジェルなどで口内を潤す工夫も有効です。特に就寝中の乾燥は注意が必要です。
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定期的な歯科受診かかりつけ歯科医院での定期検診とプロフェッショナルケアを受けることで、小さな異変にも早く気づけます。

これらの対策を継続することで、誤嚥性肺炎のリスク軽減や、食事の満足度向上といった具体的なメリットも期待できます。
3-5地域や制度の支援も活用しよう
現在では、オーラルフレイルの予防に取り組む自治体や福祉施設も増えており、介護予防事業や通いの場などで歯科衛生士による相談や講座が開かれることもあります。
また、歯科医院や一部薬局では、口腔機能チェックやオーラルフレイルスクリーニングを実施しているところもあり、状態を数値で把握することができます。こうした地域資源をうまく利用することが、セルフケアの継続にもつながります。
3-6口を整えることは、生活を整えること
「噛む」「話す」「笑う」といった行為は、単に食事や会話の手段にとどまらず、人としての尊厳や自己表現にも関わる行動です。つまり、口の機能は人生の質を支える土台でもあるのです。
オーラルフレイルは、静かに始まり、確実に健康を蝕みます。しかし、日々の小さな積み重ねで防げる「生活習慣病」のひとつでもあります。
高齢者本人はもちろん、家族や介護者、地域の支援者が一緒になって口腔ケアを意識することで、フレイル全体の予防にも確かな前進が生まれるはずです。
まずは「噛む」「話す」「笑う」ことの大切さを、日々の暮らしのなかで見つめ直してみましょう。それが、健康長寿への大きな一歩になるのです。
実践したい10食品群の摂り方と共食のすすめ
フレイル予防を意識するうえで、日々の食事にどう栄養を取り入れるかは非常に重要です。中でもおすすめされているのが「10食品群」によるセルフチェックの考え方です。これは何をどれだけ食べたかを見える化し、バランスを整えるための簡易ツールとして、多くの自治体や介護施設でも活用されています。
さらに、食事を一人で済ませる「孤食」ではなく、誰かと一緒に食卓を囲む「共食(きょうしょく)」には、栄養の面だけでなく精神的な安定や社会性の維持という大きなメリットもあります。この章では、10食品群の実践的な取り入れ方と、共食の力について紹介します。

4-1バランスを可視化する「10食品群」の考え方
「今日、何を食べたか」を振り返るうえで、実はとても便利なのが「10食品群チェック」です。耳にしたことがある方もいるかもしれませんが、今回は日常の食卓でどう活用できるかという視点からご紹介します。
10食品群とは? 以下の食材カテゴリに1日1回以上該当する食事をしていれば、1点カウント。毎日の健康チェックにも使えます。
10食品群とは?
- 肉類(豚肉・鶏肉・ひき肉など)
- 魚介類(鮭・さば・干物・しらす等)
- 卵類(ゆで卵・玉子焼き・オムレツ)
- 大豆製品(納豆・豆腐・油揚げ)
- 牛乳・乳製品(牛乳・チーズ・ヨーグルト)
- 野菜類(生・煮物・炒め物問わず)
- 海藻類(わかめ・もずく・ひじき)
- 果物(りんご・バナナ・キウイなど)
- いも類(じゃがいも・さつまいも等)
- 油脂類(調理に使用した油やナッツ類)
これらのうち1日に7品目以上カバーできれば、栄養バランスはまずまずといえます。カレンダーやメモ帳に日々の摂取状況を「●印」で記録していく方法もおすすめです。
4-210食品群を自然に取り入れる献立の工夫
すべてを一度にそろえるのは難しそうに感じるかもしれませんが、献立に少し工夫を加えるだけで、意外にも多くの食品群をカバーできます。
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朝食
- トースト+目玉焼き(卵)+ヨーグルト(乳)+バナナ(果物)
- ごはん+納豆(大豆)+味噌汁(海藻+野菜)
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昼食
- 焼き鮭(魚)+きんぴらごぼう(野菜+油)+じゃがいもとワカメの味噌汁(いも+海藻)
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夕食
- 豚肉のしょうが焼き(肉)+サラダ(野菜+果物)+豆腐とわかめの味噌汁(大豆+海藻)
このように、1食ずつに複数の群を意識的に組み込むだけで、1日の中で自然とバランスが取れるようになります。
4-3共食がもたらすプラスの連鎖
食事は単なる栄養摂取の手段ではなく、「誰かと一緒に食べること」でさらにその効果を高めることがわかっています。これが「共食(きょうしょく)」の価値です。
共食には以下のようなメリットがあります。
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食事量・品数が自然に増える一緒に食べると「もう一品作ってみよう」「残さず食べよう」と自然に意識が高まり、栄養バランスも整いやすくなります。
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会話が増え、咀嚼・発話の刺激になる噛む・話す・笑うといった口の動きが活発になり、オーラルフレイルの予防にもつながります。
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精神的な安定感と幸福感が増す他人と時間を共有することで、孤独感や不安感が和らぎ、生活への意欲が湧いてきます。
毎日が難しくても、週に1~2回誰かと食事をするだけでも効果があるとされています。可能であれば家族や友人と予定を合わせたり、地域の食事会や通いの場を活用したりすると良いでしょう。
4-4孤食によるリスクとは?
一方で「孤食(こしょく)」、つまり一人で食べる習慣が続くと、以下のようなリスクが高まることがわかっています。
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摂取量の減少料理や後片付けを面倒に感じ、簡単なメニューやインスタントに偏りやすくなる。
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食への興味の低下味付けや彩りに対する配慮が減り、「何を食べても同じ」と感じるようになる。
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社会性の低下食事を通じた会話や交流の機会が減り、孤立を深める要因となる。

こうした状態が続くと、フレイルの進行にもつながるため、孤食を長期化させない工夫がとても大切です。
4-5地域で広がる共食支援の取り組み
全国各地では、共食の価値に着目した高齢者支援の取り組みが広がっています。たとえば以下のような例があります。
こうした場を活用することは、食事内容の充実だけでなく、「外に出るきっかけ」となり、身体活動・社会参加へと自然につながっていきます。
4-6食事の場を「栄養+つながり」の時間に
一人で黙々と食べるのではなく、「誰かと笑顔で食卓を囲む」。それだけで食事の意味は変わります。共食は食欲・活力・対話を呼び戻し、心身を支える日常のエネルギー源になります。
たとえ月に数回からでも構いません。自分のペースで共食の機会を増やし、「食べることの楽しみ」を再発見してみてください。それが結果として、フレイルを遠ざける習慣となるのです。
フレイル予防に効く!ビタミンD・BCAA・大豆製品の活用術
栄養バランスを整えることがフレイル予防に有効であることは広く知られていますが、その中でも特に注目されているのがビタミンD、BCAA(分岐鎖アミノ酸)、そして大豆製品の3つです。これらの栄養素は、筋力維持・骨の健康・免疫力の向上に寄与し、日々の食事に取り入れることでフレイル進行を食い止める重要な要素となります。
この章では、それぞれの栄養素が持つ機能と、効率的な摂取方法について深掘りしていきます。

5-1ビタミンD|骨と筋肉、両方を守る栄養素
ビタミンDは、カルシウムの吸収を助けて骨密度を維持する働きがあることはよく知られていますが、実は筋肉の合成や免疫機能にも影響を与えていることが近年の研究で明らかになっています。
ビタミンDが不足すると、骨折や転倒のリスクが高まるだけでなく、感染症や慢性炎症、筋力低下といった問題にもつながります。
ビタミンDを多く含む食品
- 鮭・さば・いわしなどの青魚
- 干ししいたけ・きくらげ
- 卵黄
効果的な摂取方法
- 脂溶性ビタミンなので、炒め物や煮物で
- 日光浴(顔や腕に15~30分程度)で体内合成
- きのこ類は天日干しでビタミンDが増加
食事からの摂取と日光による生成を両立させることで、より安定してビタミンDを体内に保つことができます。特に閉じこもりがちな高齢者では、意識的な日光浴が重要です。
5-2BCAA(分岐鎖アミノ酸)|筋肉の材料としての特別な役割
たんぱく質を構成するアミノ酸の中でも、バリン・ロイシン・イソロイシンという3種の「分岐鎖アミノ酸(BCAA)」は、特に筋肉に対して強い影響を持ちます。
このうちロイシンには、筋肉細胞に直接働きかけて筋たんぱくの合成を促進する作用があり、サルコペニア対策として注目されています。
BCAAは運動時や運動後の筋肉の保護にも効果があるため、食事だけでなく軽い筋トレとの組み合わせで、筋量維持に相乗効果をもたらします。
このあとの後半では、大豆製品の栄養価と実用性、BCAAを多く含む具体的食品と摂取タイミングの工夫などをさらに掘り下げてお伝えします。

5-3毎日無理なく摂れる「大豆製品」の実力
動物性たんぱく質と並んで注目されているのが植物性たんぱく質の代表格「大豆」です。特に高齢者にとって、大豆製品は消化吸収がよく、食べやすく、献立に取り入れやすいという点で非常に優れています。
大豆には、BCAAをはじめとするアミノ酸がバランスよく含まれており、しかもコレステロールを含まず低脂肪という特長があります。さらに、骨粗しょう症予防に効果があるとされる「イソフラボン」も豊富です。
日常で取り入れやすい大豆食品
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納豆朝食で手軽に。ごはんや卵と合わせても◎
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豆腐冷奴・味噌汁・炒め物など用途多彩
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厚揚げ煮物にすればボリュームアップにも
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油揚げ味噌汁の具や和え物のアクセントに
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豆乳スープやホットドリンクとしても人気

最近では「大豆ミート」も注目されています。肉に近い食感ながら動物性脂肪が少なく、カロリーを抑えつつたんぱく質を確保できるため、健康意識の高い人々だけでなく高齢者のフレイル予防にも適しています。
5-4フレイル予防に効果的な取り入れ方
どんなに栄養素に優れていても、摂取の「タイミング」や「量」が不足していては効果を十分に発揮できません。以下のような工夫を加えることで、筋力や骨を守る習慣として定着させることが可能です。
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朝食に必ずたんぱく質前夜からの空腹状態をリセットするため、卵・納豆・牛乳・ヨーグルトなどを取り入れる
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運動後30分以内にBCAAを含む食品筋肉合成が高まる「ゴールデンタイム」に合わせて肉・魚・豆腐を摂取
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夕食は量より質を重視消化の良い大豆製品や柔らかく煮た魚・野菜を中心に構成
特に高齢者では食が細くなりがちなので、1食で摂り切ろうとせず、3食に分けて小分けで摂ることで無理なく栄養を補えます。
5-5補助食品の活用も視野に
噛む力が弱い、調理が負担、食欲が出ない──そんなときは栄養補助食品や高たんぱくゼリーの活用も一つの方法です。ドラッグストアやスーパーでも手軽に購入でき、スープや飲料、デザートとして摂取できます。
ただし、あくまで「補助」であり、基本は食事からの栄養摂取です。医師や栄養士のアドバイスをもとに、必要な時に適切に取り入れるようにしましょう。
5-6「体を作る栄養」を意識的に味方に
ビタミンD、BCAA、大豆製品──いずれも体にとって「なくてもすぐに問題は起きない」けれど「不足すればじわじわと衰えが進む」という特性があります。フレイルの予防には、こうした栄養素を日常のなかで習慣化することがカギです。
毎日の買い物、献立のひと工夫、いつもの味噌汁の具材選び。そうした小さな積み重ねが、将来の自分を守ってくれる力になります。意識を少しだけ向けることから、始めてみましょう。

栄養と運動はセットで考える|レジスタンス運動の効果と続け方

「栄養と運動は車の両輪」と言われるように、フレイル予防を考えるうえで筋肉の材料(たんぱく質)を摂るだけでなく、使って鍛えることが必要です。
特に高齢者においては、ただ体を動かすだけでは不十分であり、「筋肉に適度な負荷を与える」ことが重要です。これを実現するのがレジスタンス運動(筋トレ)です。
「筋トレ」と聞くと重たいダンベルやハードな運動を想像しがちですが、実際には椅子に座ったままでも行える低負荷の運動が主流であり、無理なく習慣にしやすいのが特徴です。
6-1なぜレジスタンス運動が必要なのか
年齢とともに筋肉量は自然に減少していきます。この現象はサルコペニアと呼ばれ、放置すると立ち上がる、歩く、階段を登るといった基本的な動作に支障が出てきます。
これを防ぐには、筋肉に「使われている」という刺激を与える必要があります。それを最も効率よく実現するのがレジスタンス運動です。継続することで、以下のような効果が期待できます。
- 筋肉量と筋力の維持・向上
- 転倒や骨折のリスク低減
- 歩行速度や立ち上がり動作の改善
- 基礎代謝の向上と体脂肪の抑制
さらに、筋肉が刺激されることで、食欲を高める「ホルモンバランス」が整いやすくなり、栄養摂取の効果も最大限に引き出されます。
6-2食後30~60分が運動のゴールデンタイム
運動と栄養の相乗効果を高めるには、食事のタイミングも重要です。食後30~60分は血中のアミノ酸濃度が上昇し、筋たんぱく質の合成が活性化しやすくなります。
たとえば、朝食後に軽い体操を取り入れたり、夕食前にゆっくりスクワットを行うなど、タイミングを意識するだけでも効果に差が出ます。
このあと後半では、実際のレジスタンス運動のメニュー例と毎日無理なく続ける工夫について、具体的にご紹介します。
6-3椅子と壁があればできる!自宅での筋トレメニュー
レジスタンス運動と聞くとハードなイメージを持つ方も多いかもしれませんが、実際には器具がなくても安全にできるメニューが数多く存在します。以下は高齢者向けの簡単なメニュー例です。
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椅子スクワット背もたれのある椅子の前に立ち、ゆっくり座ってゆっくり立ち上がる。太もも・お尻・体幹を鍛える。
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かかと上げ・つま先上げ立った状態でゆっくりかかとを上げ下げ。ふくらはぎの筋力向上とバランス力アップ。
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膝伸ばし体操椅子に座り、片脚ずつ膝を伸ばして数秒キープ。太ももの前側の筋肉に刺激。
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壁腕立て伏せ壁に両手をついて、腕立て伏せのように前後運動。胸・肩・腕の筋力維持に。

各動作は1日10~15回×2~3セットを目安に、無理のない範囲で取り組みましょう。痛みやめまいがある場合は中止し、主治医の確認を受けてから再開してください。
6-4習慣化のコツ|楽しく・忘れず・自分らしく
どんなに効果的な運動でも、三日坊主で終わってしまっては意味がありません。以下のような「習慣化のコツ」を取り入れることで、無理なく続けることができます。
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時間を固定する「朝のラジオ体操の後」「夕食後のテレビ前」など生活リズムに組み込む
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記録をつけるカレンダーや手帳にチェックを入れることで達成感を得やすくなる
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誰かと一緒にやる家族や近所の人と「声かけあって続ける」ことが最大の継続策に
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音楽やラジオを活用運動中に好きな音楽を流すことで気分転換にもつながる

また、週に数回の通所リハビリや地域の体操教室に参加するのも良い方法です。自宅では気が緩んでしまう方も、場所や人の力を借りることで継続のモチベーションを維持できます。
6-5運動は「若さを保つ投資」
筋肉は何歳からでも鍛えられます。大切なのは「年齢なりに少しずつでも動くこと」、そして「動かしながら栄養を入れること」です。
高齢期における運動は、体力向上だけでなく、心の活力や社会参加への意欲を引き出すきっかけにもなります。毎日を少し元気にする「動く習慣」を、今日から始めてみませんか。
暮らしの中で習慣化する工夫|1日3食・水分・ストレス管理で安心な毎日を
フレイル予防の取り組みは、知識を得ただけでは意味がなく、「毎日の生活にどう落とし込めるか」が最大の鍵となります。どんなに優れた栄養や運動方法も、続けられなければ効果は発揮されません。
この章では、高齢者が無理なく取り組める生活習慣の工夫として、1日3食の維持、水分補給、ストレスマネジメントの3つを中心に解説します。
7-11日3食を「食べるだけ」から「整える時間」へ
年齢を重ねるにつれ、食欲の波が大きくなったり、食事回数が不規則になったりしがちです。しかし1日3食を規則正しく食べることは、栄養面だけでなく体内時計のリズムを整える上でも重要な意味を持ちます。
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朝食
代謝と脳を目覚めさせる。果物や牛乳、たんぱく質を含めると◎
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昼食
活動量が多い時間帯。炭水化物と主菜、副菜のバランスを意識
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夕食
就寝までに消化できるよう、量は控えめで消化の良いものを選ぶ
食事を「摂る」から「整える」へと意識を変え、1日3回の食卓を身体と心を整える時間と捉えてみましょう。

7-2水分は「乾く前に飲む」が基本
高齢者の脱水は、夏だけでなく一年中注意が必要です。特に問題なのは、喉の渇きを感じにくくなるという生理的な変化が起きること。自覚がないまま脱水状態になり、倦怠感や認知機能の低下、便秘や尿路感染のリスクも高まります。
水分摂取のポイントは次の通りです:
水分摂取のポイント
- 朝起きたらすぐコップ1杯
- 1~2時間に1回、小分けで
- 入浴前後・運動後・トイレのあとも意識的に
- お茶・味噌汁・スープなどからも水分を
「喉が渇いた」ではなく、時間で飲むことを習慣にするだけで、フレイルの大きなリスク要因を回避できます。
7-3ストレスと上手につきあう習慣を
日々の生活の中で、意外と軽視されがちなのがストレスの影響です。慢性的なストレスは自律神経を乱し、食欲・睡眠・血圧・筋力など多方面に悪影響を及ぼします。
フレイルを防ぐうえで「心の安定」を保つことは、体の健康と同じくらい重要です。以下のような簡単な工夫が役立ちます。
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日光を浴びる朝の散歩や庭の手入れで体内時計をリセット
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好きなことに時間を使う趣味・読書・音楽などで気分転換
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「ありがとう」「楽しかった」と口に出すポジティブな言葉は心を整える
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睡眠リズムの安定化寝る前のスマホやテレビを控える
ストレスに強くなるというよりも、軽く受け流せる状態を日々整えておくことが、健康長寿への秘訣です。
7-4小さな習慣の積み重ねが「元気な老後」をつくる
フレイル予防に必要なことは、特別なことではありません。「いつもの食事に一品加える」「立ち上がるついでに膝を伸ばす」「誰かにおはようと声をかける」、そんな日常の動作や会話の中に、予防のタネはたくさんあります。
1日3食、水分補給、軽い運動と笑顔の時間。それらを無理なく、忘れず、心地よく続ける工夫を、これからの毎日に添えていきましょう。
人生100年時代。元気でいられる時間を1日でも長くするために、今日できることから一歩ずつ始めてみてはいかがでしょうか。