高齢者の高血圧を正しく理解する|血圧が上がる理由と生活でできる予防策

高齢者に高血圧が多いのはなぜ?加齢による体の変化と血圧の関係
年齢を重ねると、健康診断などで「血圧が高めですね」と言われることが増えるのは、決して偶然ではありません。日本において高血圧は高齢者にとって極めて一般的な症状であり、実際に70歳以上では6割を超える人が高血圧と診断されています。では、なぜ高齢になると血圧が上がりやすくなるのでしょうか?そこには、体の自然な老化に伴ういくつかの変化が大きく関係しています。
-
血管の弾力低下加齢とともに血管はしなやかさを失い、硬くなっていきます。この現象を「動脈硬化」と呼び、血液の流れに対する抵抗が増すため、心臓はより強い力で血液を送り出す必要が生じ、結果として血圧が上昇します。
-
自律神経の働きの低下血圧の調整には自律神経の働きが深く関係しています。特に交感神経と副交感神経のバランスが崩れると、血圧が不安定になりやすく、急に上がったり下がったりする「血圧変動」が起こりやすくなります。
-
血液の粘度や量の変化高齢になると体内の水分量が減少し、血液がドロドロになりやすくなります。この粘度の高い血液は血管を流れにくくなり、血圧を押し上げる要因となります。
これらの変化に加え、生活リズムや環境の変化も血圧に影響を与える要因となります。例えば、睡眠時間が短くなったり、夜中に目が覚めやすくなったりすることも、血圧のバランスを崩す一因です。
高齢者の血圧はこうして決まる
血圧は次の4つの要素によってコントロールされています:
心臓が1回の拍動で送り出す血液の量と力は、血圧に直結します。年齢とともに心筋が衰えたり、心臓に負担がかかることで、この機能は低下しやすくなります。
血液の流れる量血液の量が多ければ多いほど、血管にかかる圧力は上がります。体内水分の調整がうまくいかないと、必要以上の血液量が保たれ、血圧が上昇します。
血管の通りやすさ血管が詰まりやすくなる、あるいは細くなると、心臓はより強く血液を押し出す必要が生じます。これが高血圧の直接的な要因となります。
血液の粘り気血液が濃くドロドロしている状態は、血流を悪化させ、血管内での抵抗が増します。その結果、血圧が上昇します。

血圧の上昇を見逃さない姿勢が大切
高齢になると血圧が高めになるのは自然な現象の一つですが、それを「年のせい」と見過ごしてしまうのは危険です。なぜなら、高血圧はそれ自体が症状を起こさない「サイレントキラー」と呼ばれ、気づかないうちに心臓や脳、腎臓などに深刻なダメージを与えるからです。
重要なのは、日々の血圧の変化に敏感になり、定期的なチェックを行い、必要に応じて医師に相談するという姿勢です。また、早朝や深夜の血圧変動が起こりやすい時間帯に測定することで、より実態に近い数値を把握することが可能になります。
高齢者の体は、外からは見えない変化が少しずつ進行しています。血圧の上昇もその一つであり、放置すれば取り返しのつかない結果を招く可能性があります。自分の体の変化に目を向け、できる範囲で生活習慣を整えていくことが、健康を維持する第一歩になるのです。
高血圧による合併症とは?心臓・脳・腎臓に及ぶリスク

高血圧は単なる「血の圧力が高い状態」ではなく、全身の臓器に深刻な影響を及ぼす危険な慢性疾患です。特に高齢者の場合、血管がもろくなっているため、わずかな負担でも重大な合併症を引き起こすおそれがあります。ここでは、高血圧が引き金となる主な病気と、それぞれのリスクについて整理してみましょう。
心臓と血管に関わる代表的な合併症
-
高血圧性心肥大
高血圧によって心臓が常に過剰な力で血液を送り出すようになり、心筋が肥厚して心肥大を起こします。進行すると心不全のリスクも高まります。
-
狭心症・心筋梗塞
動脈硬化によって心臓の血管が細くなると狭心症を発症。さらに血栓などで血管が詰まると心筋梗塞に至り、命に関わる状態になります。
-
大動脈瘤
血圧による強い圧力で、大動脈の壁が膨らんでしまうのが大動脈瘤です。破裂した場合は致死率が非常に高く、緊急手術が必要となるケースもあります。
脳に現れる深刻な異変
-
脳梗塞
脳の血管が詰まることによって、酸素や栄養が行き渡らなくなり、脳の一部が壊死します。片麻痺や言語障害が残る可能性が高く、リハビリが必要になることも。
-
脳出血
もろくなった血管が破れることで脳内に出血が起こります。急激な頭痛や意識障害を伴い、命にかかわる緊急性の高い病態です。
-
くも膜下出血
脳の表面の血管にできた動脈瘤が破裂して起こるのがくも膜下出血です。発症後の生存率は低く、仮に助かっても重い後遺症が残ることが多いのが現実です。
腎臓や目にも現れる影響
高血圧の影響は心臓や脳だけにとどまりません。血液をろ過する役割を持つ腎臓や、視覚に関わる眼底にも症状が現れることがあります。
高血圧性腎障害
腎臓の細い血管にダメージが蓄積し、ろ過機能が低下する病気です。放置すると腎不全に進行し、透析治療が必要になるケースもあります。
高血圧性網膜症
眼底の血管が破れたり出血したりすることで、視力低下を引き起こす状態です。早期発見・治療が重要ですが、自覚症状が乏しいため注意が必要です。

高齢者は重症化しやすいことを理解しておく
若年層と比べて、高齢者は血管そのものが弱くなっており、血圧によるダメージが蓄積しやすい傾向があります。さらに、複数の病気を抱えているケースも多く、複合的な病態により一つの症状が連鎖的に他の疾患を悪化させることも少なくありません。
例えば、軽度の高血圧と診断されても、その裏に糖尿病や腎臓病が隠れていれば、進行のスピードは一気に加速します。
大切なのは、こうした病気が「つながっている」という認識を持ち、血圧のコントロールを中心に据えつつ、全体的な健康バランスを意識することです。高血圧は決して一つの病気では完結しない、多面的な疾患であることを忘れてはなりません。
高齢者特有の血圧の特徴|変動・朝晩の違い・白衣高血圧とは
血圧というと「高い・低い」で一括りにされがちですが、実際にはその動きには個人差があり、特に高齢者においては時間帯による変動の大きさが目立ちます。また、診察室で測った血圧と家庭での血圧が大きく異なる「白衣高血圧」や「仮面高血圧」といった現象も、高齢者に多く見られる重要な特徴です。
これらの特徴を正しく理解しておくことは、病気の予防や適切な治療方針のために不可欠です。ここでは、高齢者ならではの血圧の動きに着目しながら、その注意点と対処法を詳しく見ていきましょう。
朝と夜でこんなに違う!高齢者の血圧変動のパターン
人間の血圧には本来「日内変動」と呼ばれるリズムがあります。朝起きてから昼にかけて上昇し、夜には低下するというパターンが一般的です。ところが、高齢者になるとこのリズムが崩れやすくなり、健康管理に影響を及ぼすようになります。

このように、就寝中の血圧低下が不十分だったり、起床直後に急激な上昇が見られる場合は、家庭での血圧測定によって変動の実態を記録し、医師と共有することが非常に重要です。診察室で一度測っただけでは把握できないリスクが潜んでいるのです。
診察室と家庭で違う?白衣高血圧と仮面高血圧
高齢者の血圧測定では、病院での測定値と家庭での測定値が異なるケースが多く見られます。以下の表は、こうした現象を簡潔に整理したものです。
名称 | 特徴 | 対策 |
---|---|---|
白衣高血圧 | 病院で測定すると血圧が高く出るが、家庭では正常値。 | 家庭での測定を重視し、経過観察を基本とする。 |
仮面高血圧 | 病院では正常だが、家庭や職場では高血圧。 | 家庭での継続的な記録と医師への情報提供が不可欠。 |
特に仮面高血圧は見逃されやすく、血圧に異常がないと思っているうちに合併症が進行してしまうリスクがあります。だからこそ、自宅でも血圧計を用意し、日々の数値を記録する習慣をつけておくことが推奨されます。
こうした血圧の変動や測定の誤差を減らすためにも、正しいタイミングと姿勢での家庭測定が非常に重要です。高齢者の場合は特に、以下のような点に注意することで、より正確で信頼性の高い血圧記録を残すことができます。
-
測定は1日2回が基本朝は起床後1時間以内、排尿後、朝食前、服薬前に。夜は入浴や食後を避け、就寝前の安静時に測定するのが理想的です。
-
測定前は5分間の安静を椅子に座って足を組まず、腕を心臓の高さに保ち、リラックスしてから測定を始めましょう。動作直後の測定は避けるべきです。
-
記録はできるだけ毎日続ける1回のデータだけで判断せず、継続して測定し、平均値や変動傾向を見ることが重要です。市販の血圧手帳やアプリを活用すると管理が楽になります。
これらの工夫を続けることで、病院の診察室では見えない日々の血圧の傾向が明確になり、より精度の高い診断と治療方針の設定に役立ちます。
高齢者の血圧管理は「変動」への対応がカギ

高血圧という言葉からは、「常に高い数値が続く」イメージを抱きがちですが、高齢者の血圧はそのような単純な状態ではありません。朝は高く、昼間は下がり、夜はまた上がる、といった日内変動が大きい傾向があるため、1回の測定値で安心したり不安になったりするのは早計です。
たとえば、朝の高血圧を確認せずにいると、起床時の脳卒中リスクを見逃すことになりますし、夜間の高血圧がある場合は、就寝中に心不全や不整脈が起こる危険性が高まります。どちらも無自覚のまま進行するため、症状が現れたときにはすでに重篤というケースも少なくありません。
このような背景から、高齢者の血圧管理では変動パターンの把握が何よりも重要です。日内のリズムを知り、どの時間帯にどれほどの血圧上昇があるのかを把握しておくことが、合併症の予防につながります。
生活の中に測定習慣を取り入れる
「血圧を測るのは病院で」という固定観念は、高齢者の健康管理においては大きな落とし穴です。むしろ家庭で測る血圧こそが、日常的な健康状態を反映するリアルなデータとなります。特に仮面高血圧など、病院では見つけにくい状態を知るうえで、家庭血圧の記録は非常に貴重です。
朝のコーヒーを飲む前に1回、夜のテレビを消す前に1回など、無理のない範囲で「生活の一部」として測定の時間を決めておくと、習慣化しやすくなります。
高齢者にとって、血圧の「高さ」だけでなく、「動き」を見ることが、これからの健康寿命を大きく左右する時代です。変化を怖がるのではなく、気づけるようにすること。それが、日々の安心と長生きの礎になります。
高血圧と糖尿病・腎臓病の関係|合併症を防ぐ複合的な対策

高血圧という言葉は広く知られているものの、それが他の病気と密接に関係していることは意外と知られていません。特に糖尿病や慢性腎臓病との結びつきは強く、いずれか一方の病気がもう一方を悪化させる「悪循環」が形成されやすいのが高齢者の特徴です。
これらは決して別個に存在している病ではなく、生活習慣病の連鎖とも言える状態です。症状が静かに進行する点も共通しており、気づいた時にはすでに合併症を発症しているケースも少なくありません。
なぜ高血圧と糖尿病は同時に起こりやすいのか
厚生労働省の調査によると、糖尿病患者のうちおよそ40%以上が高血圧を合併しています。また、高血圧の人が糖尿病を発症する確率は、そうでない人の2~3倍にもなると言われています。
-
共通する原因
どちらの疾患も、過剰な塩分や糖分の摂取、運動不足、肥満、ストレスといった生活習慣の乱れが大きな原因となります。
-
血管に対する影響
糖尿病は血管を劣化させる病気でもあり、これが高血圧と重なると、血管の硬化や詰まりが急速に進行します。
このように、糖尿病と高血圧はお互いに悪影響を及ぼしあいながら進行するため、どちらか一方だけを治療しても不十分です。両者を並行してコントロールすることが、合併症を防ぐ上での鉄則となります。
慢性腎臓病にも要注意

高血圧によって血管に持続的な圧力がかかり続けると、腎臓の糸球体と呼ばれる血液ろ過装置が傷ついてしまいます。これによりろ過機能が低下し、タンパク尿やむくみ、倦怠感などの症状が現れます。
また糖尿病も、腎臓の微細血管を傷つけて糖尿病性腎症を引き起こします。どちらのルートからでも腎機能は確実に損なわれていき、進行すると人工透析が必要になることもあります。
以下は、高血圧・糖尿病・腎臓病の相互関係を示した構図です。
このような「負のスパイラル」に入ってしまう前に、複数の病気を同時に視野に入れた予防・対策を実行することが、健康維持の鍵となります。
複合的に進行するリスクを減らすために必要な対策
高血圧・糖尿病・腎臓病という3つの病気は、それぞれが互いを悪化させる特徴を持っています。だからこそ、一つの病気だけに注目するのではなく、包括的に管理していく姿勢が大切です。
以下に、複数のリスクを同時にコントロールするための実践的なポイントを挙げます。
-
食事管理塩分は1日6g未満、糖質は摂りすぎず、野菜や食物繊維を中心とした食事に切り替えることが基本です。カリウム・マグネシウムの摂取も血圧と血糖の安定に効果的です。
-
体重・肥満管理肥満はすべての生活習慣病の共通リスクです。体重が5kg減るだけでも血圧が数mmHg低下する場合があることが報告されています。
-
適度な運動毎日のウォーキングや自宅での簡単なストレッチなど、無理のない範囲で継続することが重要です。激しい運動は腎臓に負担をかけるため避けましょう。
-
ストレス軽減と睡眠改善ストレスが血圧や血糖値の急上昇を招くことも。就寝前にリラックスする習慣や、十分な睡眠時間を確保することで体の回復力が高まります。
複数疾患への対応には医療機関との連携が不可欠

症状が軽いうちはつい後回しにされがちですが、3つの病気は「沈黙の病気」とも言われるほど進行が静かです。そのため、定期的に血液検査や尿検査を受けておくことが極めて重要です。
特に糖尿病と腎臓病が重なると、服用する薬の種類や用量に注意が必要になります。独自の判断でサプリメントや健康食品を取り入れると、腎機能に悪影響を及ぼす可能性もあるため、かかりつけ医との相談を基本としましょう。
また、病気が重なれば医師も「内科」「腎臓内科」「糖尿病内科」など複数の診療科にまたがることになりますが、それぞれの専門家と連携を取りながら、自分の状態を正しく伝えるために日々の体調や測定記録をノートやアプリで残すことが非常に有効です。
合併症を防ぐために、日常の「気付き」が最も大切
高血圧・糖尿病・腎臓病のいずれも、初期には目立った自覚症状がほとんどありません。しかし、疲れやすくなった、むくみが出た、視界がかすむ、夜中にトイレが近い、そのような些細な変化が、体からのサインであることがあります。
「歳のせい」と軽く受け止めるのではなく、こうした小さな違和感を放置しないこと。定期的に血圧や血糖値を測ること。そして、早めに医療機関に相談すること。それらすべてが、合併症を未然に防ぐ最も確実な方法です。
一つの病気を管理するのではなく、「全体を見る」視点を持つこと。それが、高齢者がより長く健康で自立した生活を送るための大切な第一歩です。
家庭での血圧管理のすすめ|正しい測定法と記録の活用
高齢者における血圧管理の最大の課題は「日々の変化を見逃さないこと」です。病院での測定値だけに頼っていては、本当の状態を把握することができません。なぜなら、高血圧は朝と夜で数値が大きく変動するだけでなく、診察時の緊張によって数値が上がる「白衣高血圧」や、逆に病院では正常に見える「仮面高血圧」なども多く見られるからです。
そのため、家庭での血圧測定を「習慣」として取り入れ、記録し、医療機関と共有することが、健康寿命を守るための重要な鍵となります。
家庭血圧のメリットは「日常を知る」こと
-
リラックスした環境で正しい数値が出る
自宅で測る血圧は、精神的な緊張や外部の影響を受けにくいため、より実態に近い状態が把握できます。
-
白衣高血圧や仮面高血圧の発見につながる
家庭と病院での数値の差異から、病気の兆候を早期に察知できます。特に仮面高血圧は家庭測定なしでは気付きにくい存在です。
こうした理由から、現在では日本高血圧学会をはじめとする多くの医療機関が「家庭血圧の記録」を重視しています。毎日の記録が、将来の重篤な合併症を防ぐ確かな判断材料となるのです。
正しい血圧測定のポイント
自宅で血圧を測るとき、「いつ測るか」「どのような姿勢で測るか」によって、数値は大きく変わります。以下の項目を守ることで、誤差の少ない測定が可能になります。
朝は起床後1時間以内、トイレを済ませたあと、朝食前・薬を飲む前に。夜は入浴や食後を避け、就寝前の安静時に行いましょう。
安静を保つことが大切測定前に5分ほど椅子に座って安静に過ごし、落ち着いた状態で測定を始めてください。会話をしながらの測定は避けましょう。
姿勢と測定位置背もたれのある椅子に深く腰掛け、足を組まず、腕を心臓と同じ高さにして測定するのが理想です。机の上に腕を乗せると安定します。
また、測定結果はその日の体調や気温、ストレスなどでも変動します。一つ一つの数値に一喜一憂するのではなく、平均値の推移を見ることが、正確な健康管理には欠かせません。
記録を「習慣」にしてこそ意味がある
毎日の測定結果は、記録することで初めて意味を持ちます。単に数字を覚えておくのではなく、目に見える形で記録することで、変化や傾向に気づきやすくなり、早期の対応にもつながります。
記録には以下のような形式があり、自分に合った方法を選ぶことが継続のコツです。

医師との連携が予防と治療のポイントに
家庭で得られたデータは、単なる記録にとどまらず、医師の診断材料として極めて重要です。病院での一度の測定よりも、毎日の生活の中で安定して記録された家庭血圧のほうが、実際の健康状態を正確に反映していると言われています。
特に以下のような症状や傾向がある場合は、記録を医師に提示することで早期発見や治療方針の見直しにつながります。
-
朝だけ異常に高い
早朝高血圧の疑いがあり、脳卒中の予防が急務となります。
-
夜になっても血圧が下がらない
夜間高血圧は心臓への負担が大きく、心不全や不整脈のリスクが高まります。
-
日によって大きく変動する
自律神経の乱れやストレスの影響が考えられ、薬の調整が必要になることもあります。
血圧は「その場の数値」ではなく、「時間をかけて見る傾向」が命を守る判断基準になります。測定・記録・医師への報告という3つの流れを意識して、家庭での血圧管理を実践していきましょう。
日常の中に、自然に血圧管理を取り入れる

血圧を測ることは特別な作業ではなく、歯磨きや顔を洗うのと同じように、日々の生活の一部にしていくことが理想です。リビングのすぐ手に届く場所に血圧計を置く、カレンダーにメモを書く、などの小さな工夫が習慣化を助けてくれます。
血圧は「年齢とともに上がるもの」として見過ごされがちですが、放置すれば命に関わる病気につながるリスクも。だからこそ、自分の数値に目を向けることが何よりの健康維持となります。
機器の選び方や記録方法に迷ったときは、薬局やかかりつけ医に相談して、自分に合ったスタイルを見つけましょう。家の中で、日々の暮らしの中で、できることから始める。それが、高齢者にとって最も安全で現実的な高血圧予防法なのです。
食事・運動・睡眠の工夫で血圧上昇を抑える日常生活のポイント

高血圧を防ぐうえで薬の服用や医療のサポートは大切ですが、最も根本的な対策となるのは日々の生活習慣の見直しです。特に高齢者の場合、無理のない範囲で「できることから始める」意識が健康維持のカギを握ります。
ここでは、食事・運動・睡眠という3つの観点から、高齢者に適した血圧対策の具体例を紹介していきます。
まずは「食事」から整える
毎日の食事は、血圧に最も直接的な影響を及ぼす要素です。特に塩分の摂りすぎは高血圧を引き起こす最大の原因のひとつとされており、日本人の平均摂取量は推奨値よりも高い傾向にあります。
日本高血圧学会のガイドラインでは、1日6g未満の塩分摂取が推奨されています。加工食品や外食に多く含まれる塩分を意識的に減らし、天然のだしや香辛料を活用することで、無理のない減塩が実現できます。
また、次のような栄養素を意識的に摂取することで、血圧を下げる効果が期待できます。
-
カリウム
体内のナトリウム(塩分)を排出する働きがあります。野菜・果物・海藻類・豆類などに多く含まれます。
-
カルシウム
血管の収縮を抑える作用があり、乳製品や小魚などが有効な摂取源となります。
-
マグネシウム
血管の緊張を和らげ、血流を改善します。納豆や玄米、ゴマなどが豊富な食材です。
食事の内容を見直す際は、「何かを我慢する」よりも「体にいいものを増やす」という前向きな視点が継続には効果的です。楽しみながら栄養バランスを整えることで、食事がストレスではなく、血圧対策の味方になります。
「運動」は毎日続けられる形で
高齢者にとって運動は、筋力の維持や心肺機能の強化といった利点に加え、ストレス軽減や血流改善といった点でも非常に重要です。特別な運動をする必要はなく、毎日の生活に組み込める小さな動きの積み重ねが、大きな成果を生みます。
-
おすすめの運動
- 1日30分のウォーキング
- 家の中での踏み台昇降
- 椅子を使ったスクワット
- ラジオ体操第一だけでも効果あり
-
避けた方がよい運動
- 息を止めて力を入れる動作(いきみ)
- 高重量の筋トレ(ダンベル等)
- 寒暖差が大きい屋外での激しい運動
- 転倒リスクのある段差のある運動
気温や天候に応じて室内運動を取り入れたり、パートナーや家族と一緒に取り組むことで継続しやすくなります。「一人で黙々と」ではなく、楽しみながら行う運動が、習慣化のポイントです。
良質な「睡眠」が血圧を整える鍵に

睡眠不足や不規則な生活は、自律神経の乱れを招き、血圧の安定を妨げる要因となります。特に高齢者の場合、眠りが浅くなりやすく、途中で目が覚めることも多いため、意識的に睡眠の質を高める工夫が求められます。
以下に、血圧に良い影響をもたらす睡眠習慣のポイントをまとめました。
生活リズムを整えることで体内時計が安定し、血圧の変動も抑えられます。
寝室の環境を整える明かりや音、温度などを整えることで入眠しやすくなり、深い眠りが得られます。特に寒い夜は冷えによる血圧上昇を防ぐためにも注意が必要です。
寝る前のスマホやカフェインを控える神経を刺激する要素を減らすことで、自然な眠気が促され、睡眠の質が向上します。
生活習慣を「無理なく続ける」工夫
血圧対策において、最も難しいのは「続けること」です。特に高齢者の場合、急な変化や厳しい制限はストレスとなり、かえって体調を崩してしまうこともあります。
そこで大切なのが、小さな変化を積み重ねていく視点です。
-
最初は週に2回の散歩から始めるいきなり毎日でなくてもOK。自分のペースを尊重しましょう。
-
食事は「一汁三菜」を意識するおかずを一品増やすことで、栄養バランスも自然と整います。
-
朝の光を浴びて体内時計をリセット朝起きたらカーテンを開けて日光を浴びましょう。自律神経が整いやすくなります。
これらの行動はどれも、特別な道具や費用を必要とせず、自宅ですぐに実践できるものばかりです。
「自分の心地よい形」で取り組むことが大切

高齢者の健康対策は「理想を追う」のではなく、「現実的にできることを、楽しく続ける」ことが何よりも重要です。体調や生活リズム、家庭環境は人それぞれ違います。だからこそ、自分に合った無理のない方法を見つけることが、長続きのコツになります。
完璧を目指さず、「昨日より少し良く」を積み重ねる姿勢が、血圧を自然に安定させてくれます。そしてその延長線上にこそ、健康で安心できる毎日があるのです。
気温差・脱水・ストレス…身近な要因に注意して安全な暮らしを
高齢者の血圧は、生活の中のちょっとした変化に大きく反応します。特に、気温の変化、水分不足、精神的なストレスは血圧を急上昇させる引き金になりやすく、注意を怠ると命に関わることもあります。
こうしたリスクは病気とは異なり、生活環境や習慣の中に隠れているため見落とされがちです。ここでは、日々の暮らしの中で意識しておくべき「血圧の落とし穴」を季節や状況に分けて整理し、安心・安全な暮らしを続けるための視点をご紹介します。
気温の変化に潜む危険
気温差は血管の収縮・拡張を急激に引き起こし、血圧に大きな影響を与えます。特に冬場は、リビングから浴室やトイレへの移動時にヒートショックが発生しやすく、脳卒中や心筋梗塞のリスクが高まります。
-
冬の注意ポイント脱衣所・浴室・トイレには暖房器具を設置し、温度差をできるだけ小さく保ちましょう。入浴前にはかけ湯を行い、湯温は40度以下を目安に。
一方で夏も油断はできません。冷房の効いた室内と屋外との気温差や、寝ている間の発汗による水分不足が、血圧の乱高下を引き起こす原因になります。
-
夏の注意ポイントエアコンの設定温度は高すぎず低すぎず。寝る前や起床時、こまめな水分補給を忘れずに。冷たい飲み物の摂りすぎにも注意しましょう。
脱水は「のどが渇く前」に対処を
高齢になると、体の水分保持機能や「のどの渇き」への感覚が鈍くなり、知らないうちに脱水状態になっていることがあります。
脱水は血液をドロドロにし、血流が悪くなるため、心臓や腎臓に大きな負担をかけます。さらに血圧が一時的に大きく上昇することもあり、非常に危険です。

常温の水や白湯など、身体に優しい飲み方を心がけ、こまめに水分を摂取するよう意識しましょう。
ストレスが招く血圧の乱れにも配慮を
気温や水分だけでなく、精神的な緊張や不安、怒りといったストレスも、血圧を大きく左右します。とりわけ感情が高ぶったときには、交感神経が優位になり、一気に血圧が跳ね上がることがあります。
イライラしたときや落ち込んだときには、自分なりの気分転換法をいくつか用意しておくと安心です。
- お気に入りの音楽を流す
- 散歩や軽い体操をする
- 読書やガーデニングで気分を整える
- 笑えるテレビ番組や映画を見る
心の状態を安定させることもまた、血圧を整えるための大切な日常のひとつです。
安全で穏やかな暮らしを続けるために

血圧のコントロールは、特別なことをするのではなく、小さな配慮の積み重ねから始まります。気温差に備える、水を飲む、気分転換する――それらの行動が、日々の健康を守るための大きな土台になるのです。
自分自身の体調に敏感になり、季節や環境、気持ちの変化に寄り添いながら生活を整えていく。その一つ一つが、合併症の予防となり、健康で自立した日々を支える柱となります。
何かを我慢するのではなく、自分をいたわる優しさとして、血圧との付き合い方を見直す。それこそが、これからを安心して生きていくための心強い「備え」になるのではないでしょうか。