遺産相続の全体像と実務を網羅!手続き・期限・対策をわかりやすく解説

相続発生から始まる一連の流れと最初の手続き
大切な家族が亡くなるという出来事は、精神的にも大きな負担を伴います。しかしその直後から、法的・行政的にやらなければならない手続きが多数発生します。特に相続に関する手続きの一部には法定の期限があり、放置しておくと加算税や延滞税が発生するなど、金銭的なリスクにもつながります。まずは「いつ・何を・どこで」行う必要があるのか、最初の1週間~1ヵ月で発生する流れを把握しておくことが大切です。
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STEP1
死亡診断書の受け取り病院や医師から交付される死亡診断書(死体検案書)は、相続だけでなく年金・保険・火葬の手続きにも使われます。最低でも5枚以上のコピーを準備しておくと安心です。 -
STEP2
死亡届の提出(7日以内)死亡地・本籍地・届出人の所在地のいずれかの市区町村役場に、死亡診断書とともに提出します。葬儀社が代理で手続きしてくれることも多いため、確認しておきましょう。 -
STEP3
火葬許可申請書の提出死亡届と一緒に提出し、火葬許可証を取得します。この許可証は火葬場で必ず必要となるので、当日忘れずに持参することが重要です。
このように、最初の数日間は主に市区町村役場での手続きが中心となりますが、同時に「相続の起点」でもあるため、これ以降に控える手続きの準備も意識しておく必要があります。特に、家族の中に年金受給者や介護保険対象者がいる場合は、該当制度の資格喪失や支給停止の手続きを忘れずに行う必要があります。
代表的な制度別手続き一覧(死亡後14日以内)
制度名 | 必要な手続き | 提出先 |
---|---|---|
国民健康保険 | 資格喪失届・保険証の返却 | 市区町村役場 |
介護保険 | 介護保険資格喪失届・被保険者証返却 | 市区町村役場 |
年金(国民・厚生) | 年金受給者死亡届(厚生年金は10日以内) | 年金事務所 |
年金や保険の手続きが遅れると、過払いが発生し後日返還請求が来ることもあります。市区町村役場の窓口や年金事務所で「死亡に伴う手続き一覧」のパンフレットをもらっておくと、全体の流れが把握しやすくなるでしょう。
家族の中で話し合っておきたいこと
- 葬儀社への連絡と対応範囲
役所提出を代行してくれるか、火葬場との調整も可能かを確認します。 - 死亡診断書・火葬許可証の保管
相続・年金・保険手続きなどに使うため、原本+コピーを複数枚準備。 - 年金・健康保険の停止手続きの分担
複数人で役所と年金事務所を分担するとスムーズに進みます。
こうした手続きは、突然発生するだけでなく感情的な負担と同時進行することがほとんどです。事前に流れを把握しておくことで、残された家族が慌てず対応できるようになります。葬儀社や自治体のパンフレット、専門機関のチェックリストなどを活用しながら、無理なくこなしていけるよう、家族のなかで話し合っておくことが重要です。

相続放棄・準確定申告など期限つき手続きの注意点
相続手続きのなかでも特に注意したいのが、法定の期限が設けられているものです。期限を過ぎてしまうと「単純承認とみなされてしまう」「延滞税や加算税が課される」などの不利益が生じるおそれがあります。ここでは、特に見落としやすく、かつ期限が明確に定められている相続放棄・限定承認・準確定申告・相続税申告の4項目について、それぞれの注意点と対処法を解説します。

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相続放棄・限定承認相続の開始を知った日から3ヵ月以内に家庭裁判所で申述する必要があります。相続財産を一部でも使ってしまうと「単純承認」とされ、放棄が認められなくなります。
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準確定申告被相続人が個人事業主や不動産収入などで確定申告が必要だった場合、死亡から4ヵ月以内に遺族が所得税の申告を行います。医療費控除や雑損控除の対象になる場合もあるため要確認。
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相続税の申告と納付死亡の翌日から10ヵ月以内に申告・納付が必要です。延納や物納制度の活用には別途申請が必要で、納税資金が準備できないと困るケースもあるため早めの対策を。
期限ごとにやるべきことと注意点
期限 | 手続き | 注意点 |
---|---|---|
3ヵ月以内 | 相続放棄・限定承認 | 口座の引き出しや財産の使用で「承認」とみなされる可能性あり |
4ヵ月以内 | 準確定申告 | 所得の漏れや必要経費の集計に時間がかかるため、早めに税理士に相談を |
10ヵ月以内 | 相続税の申告・納付 | 特例や控除を利用するには要件確認が必須。納税資金の準備も同時に進める |
見落とされがちなリスクと回避策
「相続放棄予定だったが公共料金の支払いに使った」など、安易な口座利用が法的にリスクとなる。
準確定申告の範囲を誤解してしまう死亡日までの所得だけが対象。年の途中で死亡した場合は相続人による申告が必要。
相続税の控除制度を知らずに納税額が高くなる配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例など、使えば節税できる制度がある。
上記の手続きはいずれも期限が到来すると原則的に「後戻りができない」ものばかりです。特に相続放棄の判断には、債務の有無や不動産の価値評価など、慎重な判断が必要となるため、早めに専門家のアドバイスを仰ぐことが賢明です。
なお、万一期限に間に合わなかった場合でも、やむを得ない事情(入院・災害・海外在住など)があれば、延長申立てや更正の請求などの手段が取れることもあります。少しでも不安を感じたら、市区町村の無料相談や司法書士・税理士への問い合わせを検討してみましょう。

相続人・相続財産の確定と必要書類の整え方
遺産相続における最初のステップとして必ず行うべきなのが、相続人の確定と相続財産の洗い出しです。この作業を正確に行わなければ、その後の手続き―たとえば遺産分割協議や税務処理―に進むことができません。

また、相続人や財産の確定に必要な書類は役所・金融機関・法務局などの複数の機関で求められるため、揃えるまでに時間がかかる場合があります。ここでは「どこで・何を・どう準備するか」をステップ形式で整理しながら解説していきます。
相続人を確定するためのステップ
被相続人の戸籍謄本を取得
出生から死亡までのすべての戸籍(除籍・改製原戸籍を含む)が必要です。市区町村の役場で申請します。
相続人の現在戸籍を取得
配偶者・子ども・父母・兄弟姉妹など、法定相続人全員分を取り寄せます。続柄の証明のために必要です。
法定相続情報一覧図を作成
戸籍をもとに相関図を作成し、法務局で「法定相続情報証明書」の交付を受けると手続きの簡略化に役立ちます。
相続財産を確定するためのポイント
相続財産には、現金・預貯金・株式・不動産などのプラスの財産だけでなく、借金・ローン・未払金などのマイナスの財産も含まれます。どちらも網羅的に調査しないと、意図せぬ債務を引き継いでしまう可能性があります。
よくある財産の分類例
現金、預貯金、有価証券、不動産、車両、貴金属、貸付金など
マイナスの財産借入金、住宅ローン、未払い医療費、滞納税金、保証債務など
みなし相続財産生命保険金、死亡退職金など(相続財産ではないが税務上は対象)
不動産・金融資産の調査方法
不動産登記簿謄本(登記事項証明書)
法務局で取得可能。不動産の名義・所在地・持分などを確認できます。
固定資産税納税通知書
土地・建物の所在と評価額の確認に便利。役所または本人の郵便物から入手。
預貯金の残高証明書
銀行に対して残高証明の発行を依頼。口座番号・通帳がわかっているとスムーズです。

注意したい3つの落とし穴
落とし穴1:戸籍収集の不備で手続きが進まない
古い戸籍は読み解きが難しく、場所によっては郵送請求が必要。行政書士のサポートを受けるのも有効です。
落とし穴2:財産の抜け漏れで相続税が過大に
預金口座が複数ある場合、見落としがち。残高証明で網羅的に調べましょう。
落とし穴3:マイナスの財産を見落として損する
保証人になっていた借金などは、相続人に突然通知が来ることも。早めに調査を。
相続人・相続財産の確定には、多くの書類や情報収集が必要です。時間がかかる工程のため、少しでも不安がある場合は司法書士や税理士のサポートを検討するのが得策です。また、証明書類は1通では足りないケースが多く、あらかじめ複数部取得しておくと、金融機関・法務局・税務署などでの再取得の手間を省けます。
早めの準備と正確な確認が、後々のトラブル回避につながります。
遺産分割協議と遺産分割協議書の作り方
相続人や相続財産の確定が終わると、次に進むのが遺産分割協議です。この協議では「誰がどの財産をどれだけ相続するか」を、すべての相続人の合意に基づいて決定します。
遺産分割協議がまとまったら、その内容を文書化した遺産分割協議書を作成します。この書類は不動産の名義変更や預貯金の払い戻しなど、さまざまな手続きで必須となる法的文書です。
遺産分割協議を始める前に確認すべき5つのポイント
- 相続人全員が確定しているか(1人でも抜けると無効)
- 遺言書の有無・内容がすでに確認されているか
- 分割対象となる財産(不動産・預金など)に漏れがないか
- 借金や保証債務など、負の遺産の処理方法を共有できているか
- 相続人全員が協議に参加・同意できる体制が整っているか
遺産分割協議書作成のステップ
電話・書面・オンラインでも可能ですが、相続人全員が参加し、同意のうえで進めることが前提です。
分割方法を決定不動産は誰が所有するのか、預金や株式はどう分けるのか。公平さと実現可能性を重視して話し合いましょう。
協議書を文書化書式は自由ですが、記載内容は正確に。財産の内訳・分割内容・相続人全員の署名と押印が必要です。
通帳・登記変更等に使用不動産登記・銀行口座・株式名義などの変更手続きにおいて、協議書が証明書類として必要になります。
分割方法の具体例
分割パターン | 説明 |
---|---|
現物分割 | 実物の財産をそのまま分ける(例:長男が不動産、次男が預金) |
代償分割 | 1人が財産を取得し、他の相続人に現金で補償する方法 |
換価分割 | 財産を売却して現金化し、分ける方法 |

遺産分割協議がまとまらないときの対処
相続人間で意見が対立し、協議が進まない場合は、家庭裁判所に「遺産分割調停」の申立てを行うことができます。調停では中立な調停委員が仲介し、話し合いの進行をサポートしてくれます。
また、法定相続分に基づいた仮分割や、相続税の申告期限が迫る中での一時的な分配も選択肢としてあります。感情的な対立を避けるため、第三者の立場である専門家(弁護士・税理士)に早めに相談することが有効です。
協議の成功には、法的知識とともに信頼関係の維持も欠かせません。相続は単なる財産のやり取りではなく、家族の人間関係に直結する場面でもあるため、柔軟性と誠実な対話を大切に進めていきましょう。
預金口座凍結・生活資金確保に役立つ制度とは

家族が亡くなった直後、精神的なショックと並行して直面する現実的な問題のひとつが、預金口座の凍結です。特に家計のメイン口座が故人名義だった場合、公共料金の引き落としや生活費の支払いが突然止まってしまうことも少なくありません。
相続財産には当然ながら預貯金も含まれます。ゆえに「誰のものにするか」が決まるまで、金融機関側はその資産の動きを一時的にストップせざるを得ません。こうした仕組みを理解し、万一の際にも慌てずに済むよう、凍結の流れと生活資金確保の制度を押さえておくことが重要です。
なぜ預金口座は凍結されるのか?
口座凍結の理由:金融機関は、預金者が亡くなったことを知った時点で、その口座を相続財産とみなし、勝手に引き出せないように凍結処理を行います。遺言書や遺産分割協議書の提出があるまで、残高は一切動かせません。
凍結によって起こる生活上の問題
- 電気・ガス・水道・通信などの自動引き落としが停止
- 葬儀費用や医療費などの一時的な出費が賄えない
- 遺族の生活費・交通費・教育費など、日々の支出に支障
このようなケースに備えて、葬儀社の立替や遺族の個人口座への事前移行を準備するのもひとつの方法ですが、実際にはそううまくいかないこともあります。
そんなときに活用できる制度がある

預金口座が凍結された状態でも、一定の範囲で払い戻しが可能となる制度が、2019年7月にスタートしました。これは遺産分割前でも一定額の払い戻しができる制度で、相続人が単独で手続きできるため、非常に現実的かつ即効性のある対応手段となります。
制度の概要:仮払い制度(民法909条の2)
項目 | 内容 |
---|---|
対象者 | 法定相続人であれば、単独で申請可能 |
手続きに必要な書類 | 戸籍謄本・預金残高証明・被相続人の死亡証明書など |
払い戻し可能額 | 預金残高の1/3 × 相続人の法定相続分(ただし1金融機関あたり上限150万円) |
たとえば、預金残高が600万円あり、法定相続人が配偶者と子1人の場合、配偶者が払い戻せる金額は次の通りです。
600万円 × 1/3 × 1/2(配偶者の法定相続分)= 100万円
この制度を活用することで、急な支出にもある程度対応できる体制を整えることが可能になります。
仮払い制度の注意点と限界
仮払い制度は非常に有用な制度ですが、すべてのケースで万能とは限りません。以下のような注意点を押さえておくことが重要です。
- 払い戻し金額には上限があるため、大規模な葬儀や入院費用には不足する可能性がある
- 金融機関によっては取り扱いや手続き対応が異なるため、事前に確認が必要
- 複数の金融機関にまたがる場合、それぞれに同じ書類が必要で手間がかかる
- 制度の存在を知らない金融機関職員がいるケースもあるため、根拠条文(民法909条の2)を提示するとスムーズ
他にもある、生活資金確保の代替手段
仮払い制度以外にも、いざという時に役立つ代替的な生活資金確保手段がいくつか存在します。
主な代替制度・方法一覧
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死亡保険金の請求
保険金は「みなし相続財産」であり、通常は指定受取人が単独で請求可能。最短で数日~2週間で受け取れる。
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遺族年金の受給手続き
年金受給者だった被相続人に扶養されていた配偶者・子などに支給。年金事務所で申請。
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被相続人名義の通帳から生活費を出す「事前移動」
本人が亡くなる前に必要な資金を移しておく方法。法的にグレーな面もあるため注意が必要。
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家族名義の共同口座の活用
死亡後も引き出し可能だが、相続財産とみなされ、税務上の問題になる場合も。
生活資金の確保に向けた事前対策も有効
相続発生後の生活資金不足に備えるには、生前の準備がなによりも効果的です。以下のような工夫をしておくことで、万が一のときも落ち着いて対応が可能になります。
- 配偶者や子ども名義の生活用口座を用意しておき、年金や生活費をそちらに振り分ける
- 保険金の受取人を信頼できる家族にしておく(例:配偶者)
- エンディングノートに通帳の所在・金融機関名・口座情報などを明記しておく
- 定期的に銀行の支店・残高・引き落とし内容を確認し、相続人に伝える
また、最近では信託銀行が提供する「遺言信託」や「資金受取信託」などを活用することで、相続前後の資金の流れを明確にコントロールする仕組みも整いつつあります。これらを利用すれば、本人が判断できなくなった後も一定の資金が家族に渡るように設計できます。

遺族の生活資金は“最初の壁”になりやすい
預金凍結と生活費不足は、相続手続きの初期段階において多くの家庭で直面する深刻な問題です。仮払い制度を中心に、保険や年金など他の資金源も組み合わせながら、早期の生活再建に必要な現金を確保する視点が求められます。
「万が一」に備えて、相続対策は「お金の流れ」も視野に入れたプランニングを。制度を知っているかどうかで、家族の安心度は大きく変わります。
配偶者の住まいを守る!居住権と不動産の相続対策
長年暮らしてきた自宅。配偶者にとってその場所は、単なる財産ではなく「生活の土台」です。相続の際、自宅が相続財産に含まれていたとしても、現金資産とのバランスによっては、配偶者が住み慣れた家を手放さざるを得ない状況に陥ることもあります。
そうした問題を解決する手段として、2020年に創設されたのが「配偶者居住権」です。これは相続発生後も配偶者が生涯自宅に住み続けられることを法的に保障する新しい権利制度であり、高齢の配偶者の生活を守る重要な柱となっています。
配偶者居住権とは?
配偶者居住権とは:配偶者が相続または遺贈により「その家に住み続ける権利」を取得できる制度。建物の「使用権」と「所有権」を切り離して相続できる仕組み。
制度導入前後の比較
比較項目 | 制度導入前 | 制度導入後 |
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自宅に住む手段 | 不動産を相続(現金が不足することも) | 居住権だけ取得、現金も別途受け取り可能 |
配偶者の立場 | 住むためには不動産を丸ごと相続する必要 | 使用する権利のみ取得し、柔軟な分割が可能 |
もうひとつの制度「配偶者短期居住権」

「配偶者短期居住権」とは、配偶者が最低6ヵ月間は無償で自宅に住めるという制度です。たとえ自宅を他の相続人が相続する内容の遺言があったとしても、この権利により配偶者の退去猶予が保障されます。
この制度は主に、突発的な相続や協議が長引いた際の一時的保護を目的としており、高齢者の住環境の変化に対する緩衝材として機能します。
配偶者居住権を活用する際の注意点
建物の所有者は配偶者ではない
あくまで“住む権利”であり、売却や賃貸などの処分はできません。
固定資産税は所有者(例:子ども)に課税
実際に住んでいない所有者が税金を負担するため、家族間での合意が必要。
住宅の使用状況の変化でトラブルになることも
配偶者が介護施設に入居した場合、居住権の扱いについて揉めるケースがあります。
2024年から義務化された「相続登記」への備え

2024年4月1日から、土地の相続登記が義務化されました。これにより、相続を知った日から3年以内に名義変更の登記を行わなければ、10万円以下の過料(罰金)が科される可能性があります。
相続人全員の合意が取れない、被相続人の名義のまま放置していた―といった場合でも、今後は法的責任が生じます。不動産を所有している高齢者がいる家庭は、早めに名義整理と今後の相続方針を話し合っておくことが肝要です。
相続したくない土地の処分:「相続土地国庫帰属制度」
2023年4月に開始されたこの制度により、不要な土地を国へ引き渡すことが可能になりました。以下の条件を満たす必要があります:
- 建物が建っていない、または解体済みである
- 通路・崖地・災害危険区域でないこと
- 申請時に「審査手数料」+「10年分の土地管理費」が必要
相続しても使い道がない・売却も困難な土地を持ち続けることは、税金や管理コストの負担だけでなく、子ども世代への「相続の負動産」となる危険もあります。
不動産相続は「住まい」だけでなく「将来の負担」にも関わる
高齢配偶者の生活を守るために必要な配慮は、「今の生活」と「将来の責任」を両立させることです。居住権によって住まいは確保されるものの、他の相続人との共有状態が長く続くと、トラブルの火種になることもあります。
そのため、配偶者・子どもを含めた相続人全体で、「いつまで住むのか」「その後どう処分するのか」「固定資産税は誰が払うのか」などを文書化しておくと安心です。
不動産の相続は財産というより「暮らしの継承」です。感情・生活・法務のバランスを取りながら、早い段階での対策・準備を始めましょう。
相続登記義務化と不要な土地の対処法:制度と罰則を正しく理解
これまで相続登記は“努力義務”にとどまり、放置されている不動産も少なくありませんでした。ですが、2024年4月1日からは相続登記の義務化が始まり、「知らなかった」では済まされない時代に突入しています。

特に高齢者が所有していた土地や建物が、相続によって子や孫に引き継がれるケースでは、登記未処理のまま放置されると10万円以下の過料(罰金)が課される可能性も。さらに、使い道がなく税金や維持費だけがかかる「負動産」の扱いについても、早めの検討が必要です。
相続登記義務化とは何か?
制度概要:不動産を相続した者は、相続を知った日から3年以内に登記申請を行うことが義務づけられました。正当な理由がない限り、申請を怠ると10万円以下の過料が課せられます。
義務化の背景と社会的課題
- 登記されないままの土地が増え、所有者の特定が困難に
- 災害復旧・開発計画に支障をきたすケースが多発
- 相続人が何代にもわたって把握できず、管理放棄が進行
こうした社会課題を背景に、法務省は全国一斉の名義整理を進めるべく、この制度改革に踏み切りました。
相続登記義務化の対象と罰則
項目 | 内容 |
---|---|
対象者 | 不動産を相続したすべての相続人(共有者含む) |
申請期限 | 相続を知った日から3年以内 |
罰則(過料) | 正当な理由なく登記しない場合、10万円以下の過料 |

相続登記のステップ
相続人の確定と財産の分配内容を示すための必須書類です。
相続登記申請書を作成法務局のHPで書式が入手可能。不動産所在地ごとの法務局へ提出します。
登録免許税を納付通常は評価額の0.4%が必要ですが、一定条件下では免税措置も。
登録免許税の免除措置(~2025年3月31日)
対象:不動産評価額が100万円以下の土地/未登記相続での一時登記/一部持分相続で100万円以下の場合など
不要な土地はどうする?相続土地国庫帰属制度
相続しても管理・使用する予定がない土地は、国に引き渡すことができる相続土地国庫帰属制度を検討しましょう。この制度では、一定の要件を満たすことで、土地を手放すことが可能です。
主な要件
- 建物が建っていないこと
- 境界紛争や未解決のトラブルがないこと
- 崖地や災害危険区域でないこと
- 10年分の土地管理費相当額(負担金)を支払うこと

この制度は、放置によって周囲に迷惑をかけるリスクを防ぎ、管理責任から解放される唯一の法的手段ともいえます。
相続放棄しても登記義務はある?
登記義務は「相続を知った時点で法定相続人である人」に課されるため、相続放棄を正式に受理された後であれば、その人には登記義務はありません。ただし、放棄前に登記が必要になった場合は、放棄手続きが追いつかずに義務違反となる可能性もあるため、手続きの順序には注意が必要です。
家族で話し合うべきこと
- 所有している土地の価値、利用予定、売却可能性
- 将来相続する人が管理できる体制かどうか
- 名義が被相続人のままになっている不動産の洗い出し
- 制度を利用するための要件や費用の確認
相続登記義務化は、単に法律の変更ではなく、不動産の未来をどう扱うかという「暮らしの継承」に関わる問題です。義務を果たすだけでなく、家族の将来と地域との関係を見据えた選択が求められます。