判断能力が低下したときの備えに ― 法定後見制度のしくみと活用法をやさしく解説

法定後見制度とは?制度の目的と必要とされる背景

「親が認知症になりはじめ、今後の契約ごとが心配…」「預金や不動産の手続きに支障が出てきた」、そんなとき、家族が検討すべき選択肢のひとつが法定後見制度です。
高齢化が進む現代において、判断能力の低下は誰にとっても身近なリスクになっています。その中で法定後見制度は、本人の生活と財産を守る公的なセーフティネットとして、多くの家庭で活用されています。
法定後見制度の基本的なしくみ
法定後見制度とは、認知症・知的障害・精神障害などにより判断能力が低下した人が、日常生活を安心して送れるように支援する制度です。本人の判断力が既に低下している段階で、家庭裁判所が成年後見人等(補助人・保佐人・成年後見人)を選任し、法律的・生活的なサポートを行います。
制度の基本構造
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判断能力の程度に応じて「補助」「保佐」「後見」の3類型を設定
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裁判所が選んだ後見人が、本人を代理・同意・取消権で支援
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あくまで「本人の利益保護」が最優先の制度設計
なぜ今、後見制度が必要とされているのか?
背景にあるのは、急速な高齢化と家族構成の変化です。
日本では、2025年には認知症高齢者が約700万人に達すると予測されています。これは65歳以上の約5人に1人に相当します。また、ひとり暮らしの高齢者も増加傾向にあり、財産管理や契約手続きなどを家族が代行できないケースも多く見られます。
そのため、以下のような問題が現場で頻出しています。
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財産管理の問題
通帳や印鑑の紛失、預金の引き出しができない。
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契約トラブル
悪質な訪問販売や詐欺契約に巻き込まれる。
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相続・不動産処分
遺産分割や不動産売却が進められず滞る。
こうしたリスクから本人を守り、法律的な支援体制を整えるために、法定後見制度は存在します。
「成年後見制度」と「法定後見制度」の違い
実は「法定後見制度」は、広義の「成年後見制度」の一部です。成年後見制度には以下の2つの区分があります。
今回のテーマである法定後見制度は、「いま支援が必要」な人のための制度です。
本人の意思を尊重する制度設計

制度の最大の特長は、「本人の意思尊重」を基本理念としている点にあります。たとえ判断力に不安があっても、本人の希望や気持ちは尊重されるべきもの。法定後見制度では、可能な限り本人の意向を踏まえた支援がなされるよう、家庭裁判所の関与が義務付けられています。
また、制度の運用にあたっては、親族だけでなく、弁護士や司法書士、社会福祉士などの専門職が選任されることも多く、専門性と中立性のバランスが重視されています。
制度の限界と社会の期待
一方で、法定後見制度には「手続きに時間がかかる」「本人の自由が制限される可能性がある」といった課題もあります。しかし今後ますます高齢化が進む中で、この制度が果たす役割は非常に大きく、社会的基盤としての整備と啓発が求められています。
法定後見制度は、単なる法律手続きではありません。それは、人の尊厳ある暮らしを支える仕組みであり、家族や地域社会が支援に関与するための「公的なつなぎ役」でもあるのです。
- 次にこの法定後見制度が具体的にどのような支援を提供してくれるのか、3つの類型「補助」「保佐」「後見」それぞれの違いと特徴をポイントを押さえながら説明します。
補助・保佐・後見の違いを徹底比較!支援のレベルを見極めよう

「法定後見制度」と一口に言っても、実際には支援の程度に応じて3つの類型に分かれています。それが「補助」「保佐」「後見」です。
この3類型は、ご本人の判断能力の程度に応じて段階的に設計されており、それぞれにおいて支援内容や後見人の権限が大きく異なります。適切な類型を選ぶことで、ご本人の自立をできるだけ尊重しながら、保護を受けることができます。
3類型の全体像を把握しよう
分類 | 対象となる人 | 後見人の権限 | 本人の同意 |
---|---|---|---|
補助 | 判断能力が一部不十分 | 限定的な代理権・同意権(家庭裁判所の指定による) | 要 |
保佐 | 判断能力が著しく不十分 | 民法13条の行為に関する同意権・取消権/代理権(審判による付与) | 要 |
後見 | 判断能力がほとんどない | 原則すべての法律行為に代理権・取消権 | 不要 |
表を見てもわかる通り、支援の強さが「補助 < 保佐 < 後見」の順に増していくのがポイントです。では、それぞれの類型について、もう少し具体的に見ていきましょう。
補助ごく軽度な支援で日常生活をサポート
補助制度は、「ひとりでできるけれど、少し心配な場面がある」という程度の方が対象です。
たとえば下記のような場面では、補助制度の利用が効果的です。
- 消費者金融で契約してしまいそうな不安がある
- 訪問販売で高額商品を買ってしまいそう
- 親族の相続協議で判断を誤らないか心配
補助人には、状況に応じて「同意権」「代理権」が裁判所から与えられます。ただし、その範囲は申立てによって限定されるため、使い方は柔軟です。
保佐重要な契約や法律行為を本人とともに見守る
保佐制度は、「重要な契約ごとを単独で行うのは難しい」状況の方に適しています。
たとえば以下のような行為が対象となります。
- 不動産の売却
- 借金・連帯保証契約
- 遺産分割協議への参加
保佐人には、民法13条に定められた重要な行為についての「同意権」「取消権」が与えられます。また、代理権も追加されることがあります。
補助との違い
- 保佐は「法律上の重要行為」が対象となる
- 代理・同意の権限が強く、保護の範囲が広い
後見生活全般を包括的に支援する最も強い保護
後見制度は、判断能力がほぼ喪失しており、自分で生活や契約ができない人に対して利用されます。
典型的には以下のようなケースです。
- 認知症が進行し、金銭管理がまったくできない
- 通帳や保険証の所在も分からなくなっている
- 医療・介護・住居の手配に関しても判断不能
このような場合には、後見人に「包括的な代理権・取消権」が認められ、生活や財産の保護が全面的に委ねられます。
本人の同意が必要か?という視点で見分けよう
制度の類型を判断する際、「本人が手続きにどれだけ参加できるか」が大きなポイントになります。
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補助・保佐
申立てや権限付与に本人の同意が必要
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後見
本人の同意は不要。裁判所の審理で後見開始
つまり、利用するためには「どの制度なら本人の理解が追いつくのか」を慎重に見極めることが不可欠です。
あなたや家族にとって、どの制度が最適か

選択を誤ると、本人の権利を制限してしまう可能性もある一方で、支援が不十分で生活に支障が出てしまうこともあります。そのため、家庭裁判所に申し立てる前に、医師の診断書や専門家の助言をもとに、「制度のちょうどよい段階」を選ぶことがカギになります。
- こうして選ばれた後見人・保佐人・補助人が実際にどのようなことを担い、どんな役割を果たしていくのかを現場に即した視点で掘り下げていきます。
法定後見人の役割とは?財産管理・身上監護の実務を知る

家庭裁判所の審理を経て選任された法定後見人は、単なる「代理人」ではありません。本人に代わって財産や生活を守る「権利擁護の担い手」として、幅広い分野で支援を行います。その役割は大きく分けて財産管理と身上監護の2つに分類され、それぞれに多くの実務があります。
財産管理:資産の保全と日常的な収支の監督
財産管理とは、被後見人の預金や不動産、年金収入などを適切に把握し、支出や税金の支払いを行うことを指します。
具体的な業務例
- 本人の通帳・印鑑の管理
- 年金・保険など定期収入の確認
- 医療費や生活費などの支払い代行
- 固定資産税や住民税の納税手続き
- 施設利用料やサービス費の振込
法定後見人に選ばれた後、まず行うのが「財産目録」と「年間収支予定表」の作成です。これらは就任後1カ月以内に家庭裁判所に提出しなければなりません。
この時点で、本人の収入源や資産の種類(不動産・株式・預貯金など)を明確に把握しておくことから始めましょう。場合によっては、信託銀行や金融機関と連携しながら管理を行うケースもあります。
身上監護:生活環境の整備と心身のケア支援

身上監護とは、財産以外の「生活面」の支援を指します。医療・介護・住居・契約・安全など、本人の暮らしに直接関わるあらゆる局面で、後見人が支援を行います。
特に高齢者や障害者の場合、次のような業務が発生します。
- 介護保険の申請と更新手続き
- 病院の入退院手続きや医療機関との連絡
- 施設入所に関する契約と引越し手配
- 住民票や年金手帳など行政書類の取得
- 見守り・安否確認・生活状況の把握
なお、身上監護には限界があります。法定後見人が介護や送迎などの「実働行為」を行うわけではなく、あくまで手配・契約・確認を行うのが役割です。
できること/できないことを正しく理解する
後見人の権限には明確な範囲があります。本人の権利を保護するためにも、何ができて、何ができないのかを事前に理解しておくことが大切です。
- 財産の管理・契約代行
- 本人の不利益な契約の取消し
- 施設入所契約の締結
- 医療行為への同意(原則として不可)
- 実際の介護・送迎などの身体的行為
- 本人の遺言・離婚・養子縁組
たとえば手術の同意や延命治療の判断などは、原則として本人の意思が尊重されるべきであり、後見人が単独で決定することはできません。ただし、後見人が家族である場合には、「家族としての立場」で同意することが可能なケースもあります。
後見人に期待される姿勢と心構え
後見人は単に「代理人として事務を処理する人」ではありません。本人の尊厳を守り、生活の質を維持・向上させる存在として、誠実かつ中立な対応が求められます。
そのためには以下のような注意点を押さえておきましょう。
- 本人の意思や希望を尊重する
- 報告義務を忘れず、記録をきちんと残す
- 家庭裁判所との連携を保ち続ける
- 金銭管理を透明化し、家族とも共有する
後見人の報酬については、本人の財産状況に応じて家庭裁判所が決定します。無償の親族後見人が選ばれることもあれば、有償の専門職後見人が対応するケースもあり、状況に応じて柔軟な対応が取られています。
- 後見人の業務は、意外と見落としがちで複雑です。だからこそ、最初の段階で制度をしっかり理解し、信頼できる候補者や専門家と連携して進めていくことが、本人にとっても家族にとっても安心につながります。
法定後見制度を利用すべきタイミングと典型ケース

法定後見制度は、判断能力が既に低下している方の生活と権利を守るための制度です。しかし「いつ利用すべきか」「どんな状況なら申し立てるべきか」は、多くの方が迷うポイントでもあります。ここでは、利用のタイミングと代表的なケースを、生活の場面ごとに整理して解説します。
こんなときは法定後見制度の出番かもしれません
判断能力が衰えると、契約や手続き、財産の管理に支障が生じます。そのまま放置してしまうと、本人が不利益を被るだけでなく、家族にも大きな負担がかかる可能性があります。
典型的な利用ケースを紹介
ここでは、実際によく見られる代表的なケースを5つ紹介します。
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認知症の親が通帳の管理ができなくなった
金融機関によっては、本人確認や意思確認ができないと一切の取引を停止することがあります。生活費や医療費が引き出せず困ることも多く、後見人の選任で口座の管理が可能になります。
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施設に入るために自宅を売却したい
施設入所にはまとまった資金が必要ですが、不動産の売却には本人の意思確認が必須です。判断能力が低下していれば、法定後見制度を利用して代理で売却が可能になります。
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悪質商法で高額な契約を結ばされた
訪問販売などで不要な高額契約を締結してしまった場合、後見人がいれば契約を取り消すことができます。高齢者の消費者被害対策としても有効な手段です。
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遺産分割協議に参加できない
家族が亡くなって相続が発生しても、判断能力が著しく低下していると遺産分割に参加できません。この場合、後見人を立てることで協議が進められるようになります。
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介護サービスや医療の手続きができない
要介護認定の申請や介護施設との契約、医療サービスに関する意思表示などが難しい場合、法定後見人が手続きを代行できます。
判断材料として押さえておきたい3つのチェックポイント
制度の利用に迷ったときは、以下のポイントをチェックしてみましょう。
- 1. 本人の意思確認が困難になってきたか?
- 2. 財産や生活に関わる契約で不安があるか?
- 3. 家族による代理が通用しない場面が出てきたか?
これらのチェック項目に当てはまる場合、法定後見制度の利用を検討する価値があります。特に不動産の売買や相続協議といった法律行為が関わる場合、家族であっても本人の代理はできません。制度を活用することで、法的な障壁をクリアし、円滑に手続きを進めることができます。
判断能力の低下が「見えにくいグレーゾーン」にある場合は?

中には「まだ大丈夫そうだけど、心配」という段階もあるでしょう。このようなグレーゾーンでは、いきなり法定後見を申し立てるよりも、医師の診断や専門家への相談を通じて判断を深めることが大切です。
また、判断能力がまだしっかりしている段階であれば、「任意後見契約」を締結しておくという選択肢もあります。判断力があるうちに、自らの希望で後見人を選べるという点で、より柔軟な制度設計が可能です。
制度を使うタイミングは問題が起きる前が理想
実際には、何らかのトラブルや困りごとが発生してから制度の利用に踏み切るケースが多いですが、制度の性質上、なるべく早期の準備が望ましいです。
- 本人の生活や財産を守るためには、家族が異変に気づいた段階で「後見制度の利用」を考えておくことが大切です。問題が起きてからではなく、「その前に」手を打つことが将来の安心につながります。
利用の流れと必要な手続き:申立て~開始までの道のり

法定後見制度の利用は、「家庭裁判所への申立て」から始まります。すぐに後見人がつくわけではなく、いくつものステップを経て制度がスタートします。初めて利用を検討する方やご家族にとって、どのような手順を踏むのかを具体的に知ることは、手続きへの不安を軽減し、準備をスムーズに進めるために欠かせません。
ここでは申立てから審判、そして実際の後見事務が始まるまでの流れを、段階ごとに整理して紹介します。
1申立て準備
まずは、誰が申し立てを行うかを決め、状況に合わせた書類を収集します。申立てができるのは、本人のほか、配偶者、四親等以内の親族、市町村長、検察官などです。申立て人が親族である場合には、事前に本人の同意や意思を確認することも可能です。
申立て時に必要な書類(一例)
- 申立書
- 本人の戸籍謄本・住民票
- 後見人候補者の住民票
- 診断書(家庭裁判所指定の様式)
- 本人の財産に関する資料(通帳コピー、不動産登記事項証明書など)
- 収入印紙、郵便切手、登記費用
2家庭裁判所へ申立て
書類がそろったら、本人の住所地を管轄する家庭裁判所に申立てを行います。費用としては、以下が目安です。
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申立手数料
800円(収入印紙)
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登記費用
2,600円(収入印紙)
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鑑定費用(必要な場合)
最大で10万円程度
申立てが正式に受理されると、裁判所による審理手続きに入ります。
3家庭裁判所による調査・審理
家庭裁判所では、申立書の内容をもとに本人の判断能力を調査します。これには、以下のようなプロセスがあります。
調査後、裁判所が審理を行い、後見開始の可否や、後見人の人選について判断を下します。
4審判・後見人の選任

調査結果をもとに裁判所が審判を下し、後見制度の開始と後見人の選任が正式に決定します。このとき、申立時に候補者を提示していても、必ずしもその人物が選ばれるとは限りません。
選任の判断は、本人との関係性、財産規模、親族間の対立の有無、社会的信頼性など多くの要素を加味して裁判所が行います。
審判の内容は申立人・後見人候補者・本人に通知されます。
5後見登記と後見事務の開始
審判が確定(通常は2週間)した後、法務局で後見の登記が行われ、登記事項証明書が発行されます。この書類は、今後後見人として活動する際の「証明書」として機能します。
登記事項証明書を取得した時点から、法定後見人としての業務が正式に始まります。
初回業務として、次のような3つの事務に分類されます。
- 財産目録の作成と家庭裁判所への提出
- 年間の収支予定表の作成
- 金融機関への届け出、通帳・印鑑の管理切替
利用開始までの期間はどれくらい?
申立てから後見開始までの期間は、ケースによって異なりますが、概ね次のような目安です。
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書類準備期間
1~2カ月
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申立後の審理期間
2~3カ月
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審判確定と登記
約1カ月
トータルで4~6カ月かかるのが一般的とされています。
申立ては慎重に、事前相談も活用を

法定後見制度は、一度申し立てを行うと審判前であっても取り下げには裁判所の許可を要します。そのため、安易な申立ては避け、十分に見極めた上で行動に移しましょう。
不安がある場合は、市区町村の福祉課や地域包括支援センター、弁護士・司法書士などの専門家への相談を活用しましょう。
- 後見制度を理解し、正しいステップで進めることが、本人と家族の安心と権利を守る手段の一つになります。
費用・注意点・専門家の選び方:安心して制度を活用するために

法定後見制度は、ご本人の判断力が低下したときに支援を受けられる仕組みですが、実際に利用する際には「どれくらい費用がかかるの?」「手続きに失敗したらどうなる?」といった不安がつきものです。ラストは、制度を安心して活用するためのポイントとして、費用の目安や利用時の注意点、そして専門家の選び方について要点を整理しながら見ていきましょう。
利用にかかる費用の目安
法定後見制度の利用には、申立てから実際の後見事務まで複数の費用が発生します。以下は主な内訳です。
初期費用(申立て時)
- 収入印紙代(申立手数料):800円~2,400円
- 登記手数料:2,600円(収入印紙)
- 郵便切手代:3,000円~5,000円程度
- 医師の鑑定料(必要な場合):0~100,000円
- 書類取得代(戸籍謄本・診断書・登記事項証明書など)

家庭裁判所への申立ては自分で行うことも可能ですが、不安がある場合は司法書士や弁護士に依頼するケースも多く、申立書類作成の報酬相場は5万円~10万円程度とされています。
また、後見制度が開始されると、後見人への報酬も発生する可能性があります。これは本人の財産状況や後見人の職務内容に応じて、家庭裁判所が月額2万円~6万円前後を目安に決定します。
見落としがちな注意点
制度の仕組みが整っているとはいえ、いくつかの注意点を知らずに申立てを行うと、期待していた支援が受けられなかったり、後にトラブルが生じる恐れがあります。
注意しておきたいポイント
- 申立て後の取り下げには家庭裁判所の許可が求められる
- 後見人は家庭裁判所が選任するため、希望者が就任できるとは限らない
- 一度制度を開始すると「簡単には終わらない」
- 後見人による事務は記録・報告義務があるため、対応に継続的な労力がかかる

特に、親族が後見人になる場合でも、定期的に財産状況を裁判所に報告しなければならず、「名ばかりの後見人」では済まされない責任があることはしっかり理解しておきましょう。
また、介護・医療・相続など幅広い分野に関わる制度のため、「とりあえず申し込む」のではなく、生活全体を見据えたプランニングが欠かせません。
専門家の選び方と付き合い方
法定後見制度は、家庭裁判所とのやり取りや財産管理など、専門性が求められる場面が多く存在します。そのため、信頼できる専門家のサポートを得ることが求められます。
法定後見制度に対応できる専門職には以下のような職種があります。
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司法書士
法定後見の申立書類作成・登記対応に精通。費用は比較的リーズナブル。
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弁護士
家族間トラブルや複雑な財産問題を抱えるケースに強み。
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社会福祉士
日常生活支援や介護・福祉分野に明るく、現場に寄り添う提案が得意。
いずれの専門家を選ぶ場合でも、以下のポイントを押さえておくと安心です。
信頼できる専門家を選ぶチェックポイント
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後見制度の実績が豊富か
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制度の仕組みや費用について丁寧に説明してくれるか
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将来的な変更(例えば任意後見→法定後見)にも対応できる体制があるか
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報酬や実費の見積もりが明確か
できれば複数の事務所や相談先を比較し、自分たちに合うと感じた専門家と契約するのが望ましいでしょう。
相談先はどこがある?
制度に関する情報はネットで手軽に得られる時代になりましたが、実際の制度利用にあたっては、地域に根ざした相談先を活用することがスムーズな手続きにつながります。
たとえば以下のような相談窓口があります。
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市区町村の福祉課・高齢福祉係
手続きの概要や申立ての流れについて案内
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地域包括支援センター
高齢者本人の状況に応じた制度選びのアドバイス
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家庭裁判所の受付窓口
申立て書式や書類、相談票の提出先などを案内
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日本司法支援センター(法テラス)
経済的に厳しい人への法的支援・専門家紹介
地域によっては「権利擁護センター」や「成年後見支援センター」が設置されている場合もあり、身近な専門機関とつながることを段階的に始めてみてはいかがでしょうか。
制度は準備と理解で安心につながる

法定後見制度は、適切に活用すれば本人の生活を守り、家族の不安を大きく軽減してくれる制度です。しかし、その恩恵を最大限に受けるためには、「正しい理解」「適切なタイミングでの利用」「専門家との連携」が不可欠です。
近年では、相続・老後・介護の三位一体で制度活用を考える方が増えています。「判断能力が落ちたらどうしよう」「お金の管理が難しくなったらどうしよう」と不安を感じたら、それが制度利用を検討するタイミングです。
後見制度は決して特別な人のためのものではありません。誰にとっても身近な生活の備えとして、家族の会話にのぼることが当たり前の時代に入っています。
これからの長寿社会を安心して生きるために制度を正しく使いこなす力が、人生後半の安心を支えてくれます。