墓じまいの進め方完全ガイド|費用・手続き・供養選び・トラブル回避まで解説

なぜ今、墓じまいを選ぶ人が増えているのか?
かつては「家の象徴」として代々受け継がれてきたお墓。しかし現代の日本では、墓じまいを選択する家庭が急増しています。2022年の改葬件数は15万件を超え、かつての常識が少しずつ変わりつつあることを示しています。では、なぜ人々は大切なはずのお墓を手放す決断に至るのでしょうか?この背景には、複雑な社会的・経済的要因が絡んでいます。
こうした背景を要約すると、主に以下のような理由に集約されます。
- お墓が遠くて通いづらい
- 管理費や交通費が負担
- 子どもに迷惑をかけたくない
- 供養の価値観が変わった
- 無縁墓を避けたい

最も顕著な要因は、都市部への人口集中と少子高齢化です。都市部に移り住んだ子世代は、地方にある先祖代々の墓を頻繁に訪れることが困難になります。年に数回の帰省だけでも負担になる中、墓参りのために交通費や時間をかけるのは現実的ではありません。こうした物理的距離は、「お墓を守る」という意識そのものを希薄化させているのです。
また、金銭的な事情も墓じまいを後押ししています。お墓の維持には、管理費、修繕費、仏事費用などが継続的に発生します。特に地方の墓地では、利用頻度に対して費用負担の比率が大きく、将来的な継続管理を懸念する声が増えています。「子どもに迷惑をかけたくない」と考える高齢者世代の間では、自分の代で整理しておきたいという意識が広がっているのです。
さらに、死後の供養に対する価値観の変化も無視できません。近年では手元供養、樹木葬、散骨といった新しい供養方法を選ぶ人が増え、「必ずしも墓石にこだわる必要はない」と考える方も多くなっています。若い世代を中心に、「大切なのは気持ち」であるという柔軟な発想が浸透しつつあるのです。
メディアで頻繁に報道される「無縁墓地」の問題も、心理的な後押しとなっています。「管理できなくなった結果、見知らぬ場所に強制撤去されたらどうしよう」という不安が、元気なうちに行動しようという前向きな意志を後押しするのです。
このように、墓じまいという選択肢は、社会構造や人々の価値観が大きく変化している現代だからこそ生まれた自然な流れだといえます。決して「ご先祖をないがしろにする行為」ではなく、家族と未来への思いやりを形にした、現代的な供養のあり方の一つとして捉えられるべきでしょう。
墓じまいにかかるリアルな費用内訳と抑えるコツ

墓じまいを考える際、気になるのが費用面です。「一体いくらかかるのか」「何にどれだけ払うのか」など、金銭的な不安がネックになって手続きに踏み出せない方も少なくありません。ここでは、墓じまいにかかる代表的な費用項目を明らかにしながら、少しでも出費を抑えるための工夫についてもご紹介します。

費用の総額はお墓の場所や規模、工事条件などによって大きく異なりますが、一般的な相場は20万円~50万円が目安とされています。以下のような費目に分かれて発生するのが一般的です。
主な費用項目
このように、墓じまいにかかる費用は「工事費」「儀式費」「書類手続き」「改葬費」「お礼や心付け」など多岐に渡ります。では、費用を少しでも抑えるためにはどのような点に注意すれば良いのでしょうか?
費用を抑えるための工夫
特に注意したいのは、離檀料のトラブルです。法的な支払義務はなく、感謝の意としての「お布施」的な扱いであるため、無理な請求には毅然と対応することが必要です。また、永代供養墓や合祀墓など、維持費が不要な改葬先を選ぶことも、長期的なコスト削減につながります。
墓じまいの費用は決して安くはありませんが、知識をもって計画的に動けば、無理のない予算で進めることも十分に可能です。信頼できる専門家や家族と相談しながら、現実的かつ納得できる選択を進めていきましょう。
改葬・散骨・永代供養…遺骨の行き先に迷わない選択肢とは
墓じまいを決断したあとは、遺骨をどうするかという新たな課題が待ち構えています。どこに納めるのか、どの方法を選べば後悔がないのか──その選択によって家族や故人への思いの形が変わるからこそ、慎重な判断が求められます。ここでは、代表的な改葬・供養方法の種類を紹介するとともに、選ぶ際の考え方や注意点を詳しく解説します。
遺骨の行き先には複数の選択肢が存在し、それぞれに特徴・費用・考え方の違いがあります。大切なのは、自分や家族の価値観に合った方法を見つけることです。以下に、主な供養形態を挙げました。
遺骨の供養方法の種類

この中で最も伝統的なのが「一般墓」です。古くからある形式で、墓石を新たに建立し、改めて家族で供養を続ける方法です。費用は高めになる傾向がありますが、「墓を絶やさない」という思いが強い家庭には選ばれています。ただし土地の確保や永代使用料など、経済的・地理的なハードルも考慮が必要です。
永代供養墓次に人気が高まっているのが「永代供養墓」です。墓地管理者や宗教法人が責任を持って供養・管理を行う仕組みで、子どもに管理を託さなくて済む点が大きな魅力です。合同墓・個別墓など形式は様々あり、費用も10万~50万円程度と比較的安価に収まることが多く、都市部を中心に広がりを見せています。
納骨堂近年注目されているのが「納骨堂」です。屋内型の施設に仏壇やロッカー形式で遺骨を安置するスタイルで、ビルの一角や駅近に立地しているケースも増加中。バリアフリー・空調完備・天候に左右されないといったメリットから、高齢者にとっても参拝しやすいと好評です。宗派不問のところも多く、より現代的な供養として人気が上昇しています。
樹木葬や散骨自然葬を希望する方に選ばれているのが「樹木葬」や「散骨」です。人工物に頼らず、自然と一体になるという思想に惹かれる人が多く、墓石にこだわらないシンプル志向の人々に受け入れられています。樹木葬では1本の木を墓標にし、その周囲に遺骨を埋葬する形式が一般的です。自然環境への影響や市町村ごとの条例に注意が必要ですが、宗教的拘束が少ないのも特徴です。
手元供養さらに、最近では「手元供養」を選ぶ方も増えてきました。遺骨の一部を自宅に安置し、毎日手を合わせることで身近に故人を感じられる供養方法です。遺骨ペンダントやミニ骨壺など、商品バリエーションも豊富になっています。形式に縛られず、静かに想いを寄せたい方におすすめの方法です。
それぞれの供養方法には、以下のような特徴と注意点があります。
供養方法の比較ポイント
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費用一般墓>納骨堂・永代供養>樹木葬・散骨・手元供養
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管理の手間手元供養・永代供養は管理不要
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宗教的制約散骨・手元供養は自由度が高い
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将来の継承納骨堂や永代供養は継承不要で安心
選ぶ際には「故人の意思」「家族の気持ち」「将来的な費用と管理負担」の3点をバランス良く考慮することが大切です。特にお子さんや親戚が遠方に住んでいる場合、将来的な手間が少ない形式を検討すると安心です。
遺骨の行き先に正解はありません。どの方法を選んでも、故人を想う気持ちが変わるわけではないからこそ、「無理のない供養」を家族と一緒に見つけていくことが、後悔のない墓じまいにつながっていくのです。
墓じまいの手続きと流れを7ステップで解説
「墓じまいをしたいけれど、どこから始めて良いかわからない」──これは多くの方が感じている不安のひとつです。実際には、複数の手順を正しく踏む必要があり、法的な手続き・関係者との調整・宗教的儀礼まで幅広い段取りが求められます。ここでは、墓じまいの流れを7つのステップに分けて、わかりやすく丁寧に解説していきます。
ステップ①親族との話し合いと合意形成
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まず最初に行うべきは、家族や親族との認識共有です。お墓の扱いは感情的なテーマになりやすく、無断で進めると後々トラブルになることもあります。意向や理由、費用の負担方法までを明確にし、全員の理解を得ることが何より重要です。
ステップ②遺骨の改葬先を決定
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次に、遺骨をどこに移すかを考えましょう。選択肢としては、永代供養墓・納骨堂・樹木葬・手元供養・散骨などがあります。費用や宗教観、アクセスのしやすさなどを家族で話し合い、適した改葬先を決めます。
ステップ③墓地の管理者に連絡・相談
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現在のお墓がある霊園や寺院の管理者に、墓じまいの意思を伝えます。寺院墓地の場合、離檀料や儀式の段取りについても相談が必要です。対話のトーンを誤ると関係がこじれることもあるため、丁寧に伝えましょう。
ステップ④必要書類の準備と行政手続き
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墓じまいには役所での改葬許可申請が必要です。以下の3つの書類が求められるのが一般的です。
- 埋葬証明書(墓地管理者から取得)
- 受入証明書(新しい改葬先が発行)
- 改葬許可申請書(役所で記入)
提出後、改葬許可証が発行され、初めて遺骨を移動できる状態になります。
ステップ⑤閉眼供養(魂抜き)の実施
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閉眼供養とは、墓石から仏様の魂を抜き取る宗教儀礼のこと。僧侶による読経が行われ、お布施(3万~5万円程度)を用意します。この供養が済まないと、石材店が撤去工事を行えないこともあります。
ステップ⑥墓石の解体・撤去工事
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指定の石材店に解体工事を依頼します。費用相場は1㎡あたり10万円前後。墓地の立地・通路の広さ・墓石のサイズによって価格は上下します。可能であれば相見積もりを取り、内訳をしっかり確認しましょう。
ステップ⑦改葬先への納骨・開眼供養
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遺骨を新しい場所へ移送し、改めて納骨します。墓石がある場所であれば、開眼供養(魂入れ)を行うのが一般的です。納骨時には改葬許可証の提示が求められるため、必ず持参しましょう。
このように、墓じまいには1つずつ順序を追った丁寧な段取りが求められます。トラブルを避け、関係者の理解を得ながら進めることが、後悔のない墓じまいの鍵です。
離檀料・親族間の対立…よくあるトラブルと回避の知恵

墓じまいを進めるうえで、多くの方が直面するのが「思わぬトラブル」です。法的な問題というよりは、感情的な衝突や不透明な費用など、予想外の場面で課題が浮かび上がることがあります。ここでは、特によくある3つのトラブルと、事前に備えるための知恵をご紹介します。
ケース1:離檀料トラブル
お寺の檀家を離れる際に請求される「離檀料」は、明確な相場がないため、トラブルに発展することがあります。とくに数十万円~百万円単位で請求された例では、感情的な対立に至るケースも。
これを避けるには、以下の対応が有効です。
- まずは感謝を伝えたうえで、墓じまいの意思を「相談」する
- 金額が不明瞭な場合は、丁寧に目安額を尋ねる
- 納得できないときは、第三者(石材店や行政書士など)に相談
一方的に「出ていく」と伝えてしまうと、お寺側も態度を硬化させがちです。対話の入口を柔らかく設定することがポイントです。
ケース2:親族間の意見対立
墓じまいを巡っては、兄弟姉妹・叔父叔母・従兄弟などとの温度差がトラブルの火種になることも。とくに高齢の親族は、「墓を守るのが当たり前」という考えを持っているケースが多く、若い世代の意向と衝突しやすいです。
親族間の合意形成においては、次の3つを意識するとスムーズです。
- 時間をかけて意見交換を行い、すぐに結論を迫らない
- なぜ墓じまいを考えるのか、背景と将来の見通しを説明する
- 費用や遺骨の行き先など、客観的データを交えて共有する
特に、「費用は全額こちらが持ちます」など誠意を示す姿勢があれば、協力を得やすくなります。
ケース3:書類・業者手続きの不備
意外と多いのが、必要書類の不備や、業者との認識違いによる手続きミスです。特に、改葬許可証を取得しないまま墓石を撤去しようとして、工事が中止されるケースは珍しくありません。
- 改葬許可申請書・埋葬証明書・受入証明書の準備
- 閉眼供養の日程調整とお布施の用意
- 工事業者との見積・日程のすり合わせ
これらの準備は、信頼できる石材店や行政書士と連携しながら進めると、失敗を回避しやすくなります。
トラブルの多くは「無知」か「急ぎすぎ」が原因です。知識を持って冷静に臨むことで、どんな問題も十分に回避可能です。関係者との信頼を大切にし、感情的な対立を生まない進め方を心がけましょう。
宗派・立地・費用…改葬先を選ぶときのチェックポイント
改葬先を選ぶときには、費用や立地条件、供養の形式といった様々な観点を総合的に比較する必要があります。ここでは6つの主要なチェックポイントを、視覚的にわかりやすく2列レイアウトで整理しました。
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宗派の受け入れ条件寺院墓地では宗派の一致が必要なことがあります。一方、民間墓地や納骨堂では無宗派可の施設も多いため、信仰や家族構成に応じた柔軟な選択が可能です。
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アクセスと立地条件駅からの距離・バリアフリー設計・駐車場の有無などが家族にとって通いやすさを大きく左右します。遠方の墓から近隣へ移すことで、供養の継続も容易になります。
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永代供養の有無将来的な無縁化を避けるためには永代供養制度のある施設を選ぶことが安心です。供養の方法(合同か個別)や年忌法要の内容にも注目しましょう。
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費用の総額と内訳初期費用や年間管理費の有無をチェックし、トータルコストを明確にしておきましょう。永代供養墓で30~50万円、納骨堂は50~100万円が相場です。
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運営体制と信頼性民間企業の場合は経営の安定性、寺院なら住職の継承性などが長期運営の鍵になります。トラブル対応や問い合わせ体制にも注目です。
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供養形式との相性家族葬型・合同型・手元供養など供養スタイルの違いを理解し、自分たちの考え方と合う施設を選ぶことが、後悔のない改葬につながります。
「どこが安いか」だけではなく、「どこが安心できるか」を基準に考えることが、納得できる改葬につながります。家族や専門家とも相談しながら、将来を見据えた場所を選びましょう。
墓じまいは「終わり」ではなく「新しい供養の始まり」

「墓じまい」という言葉には、どこか寂しさや終焉を感じさせる響きがあります。長年守ってきたお墓を手放すことに、後ろめたさや申し訳なさを抱く方も少なくありません。しかし近年では、単なる“お墓の撤去”ではなく、故人やご先祖への想いをこれからも大切にし続けるための選択肢として、前向きに捉える動きが広がっています。
そもそも、供養のかたちは時代とともに変化しています。かつては「お墓がある=供養できている」という考え方が一般的でしたが、現代では住環境や家族構成、宗教観の多様化によって、「想いを寄せること」「心の中で手を合わせること」に重きを置く人が増えています。たとえ物理的なお墓が存在しなくても、故人を想う気持ちさえあれば、それは立派な供養なのです。
また、墓じまいを機に、新たな供養のスタイルを選ぶ方も増えています。たとえば、納骨堂や永代供養墓への移転、樹木葬や手元供養、さらには海や山への散骨など、選択肢は多岐にわたります。これらの方法は、「故人の望んだかたちで」「遺族が無理なく続けられるかたちで」供養を続ける手段として、多くの人に支持されています。
さらに、お墓を守るために遠方まで出かけたり、費用面で悩んだりすることがなくなることで、ご遺族が日々の生活に安心とゆとりを取り戻すという意味でも、墓じまいは大きな転機となり得ます。供養を形だけのものにせず、今の暮らしと心のバランスを保ちながら向き合うこと──それこそが、これからの時代の「供養」のあり方なのかもしれません。
もちろん、墓じまいには手続きや費用、親族間の調整といった現実的なハードルがあることも事実です。しかしそれらを一つひとつ丁寧に乗り越えることによって、ご自身やご家族にとって最適な「祈りの場所」が新たに生まれるのです。

墓じまいは終点ではなく、人生の節目における選択のひとつ。そして、それは大切な人を想い続けるための「始まり」にほかなりません。自分らしい供養のかたちを見つけることで、故人とのつながりをより深く、より穏やかに育むことができるはずです。