一般公益社団法人高齢者生活支援まとめ|高齢者の命を守る防災対策 自宅・避難・地域で取り組むべき備えとは

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高齢者の命を守る防災対策 自宅・避難・地域で取り組むべき備えとは

【掲載日】2025.05.19
高齢者の命を守る防災対策 自宅・避難・地域で取り組むべき備えとは
目次
  1. 高齢者世帯が直面する災害リスクと防災の基本
  2. 命を守るために、自宅を安全な空間に整える
  3. 避難時に困らないための持ち出し準備と行動シミュレーション
  4. 高齢者に必要な福祉避難所と地域資源の活用法
  5. 災害後を生き抜くための備蓄と日常の備え
  6. 家族や近隣との連携が防災の鍵となる理由
  7. 正しい知識と習慣で高める高齢者の防災意識

高齢者世帯が直面する災害リスクと防災の基本

自然災害の多い日本において、地震や豪雨、台風といった事象は私たちの生活に常に影を落としています

自然災害の多い日本において、地震や豪雨、台風といった事象は私たちの生活に常に影を落としています。中でも注目すべきは、そうした災害が発生した際にもっとも大きなリスクを抱えるのが高齢者世帯であるという点です。避難に時間がかかり、身体の自由も限られている高齢者にとって、災害時の行動は非常に困難なものとなります。

実際、過去の大規模災害における死亡者のうち、半数以上が65歳以上の高齢者で占められていたことも報告されています。特に独居高齢者や、高齢者のみで構成される世帯においては、支援の手が届きにくいという構造的な課題が残されています。

高齢者にとっての防災とは、単なる「モノの準備」にとどまりません。生活環境の整備、避難に向けた心構え、地域社会との連携、そして日常的な意識の持ち方まで、多面的な準備が求められます。

例えば、転倒や家具の下敷きによる事故は、高齢者にとって命に関わる重大な問題です。家具の配置や固定といった自宅内の安全対策は、第一歩として欠かせません。一方で、身体的な制限からそれらの対策を一人で行うのが難しいという現実もあります。そこで必要になるのが、家族や周囲の支援です。

倒や家具の下敷きによる事故は、高齢者にとって命に関わる重大な問題です

また、災害時には「どこへ避難するのか」だけでなく、「どのように避難するのか」を具体的に想定することが求められます。多くの高齢者は足腰に不安を抱えており、通常の避難行動が難しいケースもあります。こうした課題に対して、地域ごとに整備されている福祉避難所や、避難支援制度の活用が重要になります。

ただし、防災に関する制度や支援は、情報を知らなければ利用できません。高齢者自身が情報を取りに行くことは難しいため、自治体の広報や家族からの情報提供が鍵となります。災害情報や避難場所、備えに関するパンフレットやハザードマップなどは、見やすい場所に掲示しておくと効果的です。

さらに、日常生活において防災意識を高める取り組みも有効です。防災訓練への参加や、近隣住民との挨拶・会話といった地域とのつながりは、災害時における助け合いの起点となります。普段から「助け合える関係」を築いておくことは、何よりの備えとなるでしょう。

災害は、予告なしに生活を襲います。そのとき、自力で動けるかどうか、支援を受けられる体制が整っているかどうかで、生死を分けるケースは決して少なくありません。高齢者が住み慣れた場所で安全に暮らし続けるためには、「誰が、どこで、何を支えるか」という視点からの防災設計が必要です。

高齢者本人だけでなく、家族や支援者、地域のすべての人々が連携しながら、防災という共通の課題に取り組む姿勢こそが、次の災害から命を守る鍵となります。

命を守るために、自宅を安全な空間に整える

命を守るために、自宅を安全な空間に整える

災害が発生した際、自宅が最も危険な場所になり得ることは意外と見落とされがちです。特に高齢者にとっては、避難前のわずかな時間に発生する家具の転倒落下物による怪我が命取りとなるケースもあります。だからこそ、日常から住まいを「安全な空間」に変えておくことは、最も身近で重要な防災対策のひとつです。

まず第一に着手すべきは、家具の固定です。タンスや食器棚、本棚などの大型家具は、揺れによって転倒しやすく、それが避難の妨げになるだけでなく、直接身体を傷つける原因にもなります。L字金具で壁に固定する方法がもっとも効果的ですが、賃貸住宅などで壁に穴を開けられない場合には、突っ張り棒耐震マットなどの代替アイテムも有効です。

重い物や割れ物を低い位置に収納するという基本も忘れてはなりません

また、重い物や割れ物を低い位置に収納するという基本も忘れてはなりません。テレビや植木鉢、食器などが高い場所から落下すれば、高齢者の体力では回避が難しく、重篤な怪我に繋がります。見た目よりも安全性を重視し、配置の見直しを行いましょう。

次に重要なのが、動線の確保です。災害時は、時間との勝負になるため、スムーズに玄関まで移動できるルートがあるかどうかは、生存率に直結します。廊下やドア付近、玄関前には物を置かず、常に通行可能な状態を保つようにしましょう。特に歩行器や車いすを使用している高齢者には、さらに広いスペースが必要です。

そして、寝室の安全性も確認しておく必要があります。就寝中に地震が発生する可能性は常にあり、寝ている場所の上に重い物が落ちてこないか、横に倒れてくる家具がないかを点検しましょう。可能であればベッドを壁際から少し離し、落下物の直撃を避ける構造にしておくと安心です。

さらに、普段の生活動作を妨げない範囲での対策も求められます。例えば、テーブルや椅子には滑り止めシートを使用し、揺れで不用意に動かないようにするなど、細かな工夫が重要になります。キャスター付き家具はロック機能を使い、使用後には動かないよう固定しましょう。

高齢者自身での作業が難しい場合は、家族やヘルパー、近隣の知人などに協力を依頼することも一つの選択肢です。無理に自分で背伸びをしたり、椅子に乗ったりして作業をしようとすると、かえって転倒や骨折などの危険が生じます。

自宅は生活の中心であり、安心して暮らせる場所であるべきです。その空間が災害時には凶器になり得るという現実を直視し、今日からでもできる範囲での対策を積み重ねていくことが、高齢者の命と尊厳を守る一歩になります。

避難時に困らないための持ち出し準備と行動シミュレーション

避難の瞬間は時間との戦いです。高齢者にとって、避難行動は体力的にも精神的にも大きな負担となります。その負担を少しでも軽減するためには、事前の準備が不可欠です。特に非常用持ち出し袋の整備避難ルートの確認は、高齢者世帯における最重要課題といえます。

持ち出し品チェックリスト(高齢者向け)

  1. 老眼鏡・補聴器・おくすり手帳
    避難所での生活に不可欠です。
  2. 常用薬・携帯用の杖・紙おむつ
    身体状態に合わせたケアができるよう備えておきましょう。
  3. 飲料水・保存食(おかゆ・ゼリー状食品など)
    消化しやすく、噛まずに食べられるものが理想です。
  4. 懐中電灯・マスク・口腔ケア用品
    衛生面と安全確保の基本アイテムです。
  5. 着替え・下着・ティッシュ・簡易トイレ
    避難先でのプライバシー確保に役立ちます。
  6. 家族の連絡先メモ
    スマホが使えない場面に備えて紙の記録も重要です。

避難方法は「事前に歩いて試す」が基本

避難所の場所を知っているだけでは不十分です。実際に自宅からのルートを歩いて確かめておくことで、予想外の障害に気づくことができます。たとえば、車椅子では通れない道幅、急な坂道、滑りやすい足元などは地図では判断できません。

おすすめは「家族と一緒に実地訓練をすること」。日頃から避難の流れを体で覚えておくことで、災害時の焦りを軽減できます。シミュレーションは晴天の日だけでなく、雨天時も行うとより実用的です。

避難行動要支援者名簿への登録も忘れずに

高齢者の中でも、特に避難に支援が必要な方は、自治体が運用している避難行動要支援者名簿への登録を検討してください。この名簿は、消防・警察・地域支援団体などと共有され、災害時に助けを求められない状況でも安否確認や避難支援が行われる仕組みです。

以下のような方が対象となります

  • 要介護3以上の方
  • 独居または高齢者世帯
  • 身体・知的障がいを持つ方

登録手続きは自治体窓口または福祉課で相談できます。対象外であっても、不安がある場合は自主登録が可能な地域もあるため、事前の確認をおすすめします。

命を守る行動には「準備」と「習慣」が必要です。特に高齢者の場合、機動力に限界があるため、他人よりも一歩早く動き出す必要があります。備えを「後で」と先延ばしにせず、今日から少しずつ取り組んでいきましょう。

高齢者に必要な福祉避難所と地域資源の活用法

高齢者に必要な福祉避難所と地域資源の活用法

災害発生時、高齢者にとっての避難生活は想像以上に過酷です。一般の避難所は大人数が集まりプライバシーが保たれにくく、トイレや食事、寝具などの環境も決して万全とはいえません。そうした環境が心身に負担をかける結果、健康状態の悪化を招くケースも少なくありません。

そこで活用したいのが、福祉避難所という存在です。これは、災害時に特別な配慮が必要な方のために設けられる避難施設であり、高齢者や障がい者、妊産婦などが対象となっています。環境面・介助体制ともに配慮されたこの避難所は、一定の条件を満たす福祉施設や公共施設などにあらかじめ指定されており、一般避難所では対応が難しい個別ニーズにも柔軟に対応できるよう設計されています。

福祉避難所のポイント
  • 介護ベッドや手すり付きトイレ、段差の少ない居室など、バリアフリー設計
  • 介護士や看護師の巡回、身体介助が必要な方への対応
  • 疾患・服薬管理や特殊食などの医療・栄養対応
  • 避難所ストレスの軽減を考慮したプライベート空間の確保

ただし、この福祉避難所は最初から誰でも利用できるわけではありません。多くの自治体では、まず「一般避難所」に一時的に避難し、その後に必要性が認められた場合に福祉避難所へ移動する形をとっています。そのため、高齢者やその家族があらかじめ手続きや流れを知っておくことが重要です。

福祉避難所の情報は、お住まいの自治体が発行する防災マップやホームページで確認できます。また、心身の状態に不安のある方は、災害時要配慮者としての事前登録を行うことで、災害発生時に優先的な支援を受けやすくなります。

地域資源とのつながりを深めておこう

避難所だけに頼るのではなく、日常的に活用できる地域資源も有効に活用しましょう。以下に、避難時にも支援が期待できる地域の主な支援ネットワークを紹介します。

  • 民生委員・福祉推進員
    高齢者世帯の安否確認や訪問活動を日常的に行っており、災害時も支援を行う体制が整っています。
  • 地域包括支援センター
    介護や福祉に関する相談窓口。災害時には避難誘導や支援物資の調整にも関与します。
  • 自治会・町内会
    地元のつながりを強める中核。顔見知りの関係を築いておくことで助け合いがスムーズになります。
  • かかりつけ医・訪問看護ステーション
    日常の医療支援だけでなく、避難先での医療的フォローにも連携できる可能性があります。

高齢者が安心して避難生活を送るためには、単なる施設や備品の整備だけでなく、人と人とのつながりの準備が必要です。支援の制度を「知ること」、そして「つながっておくこと」。この2つを災害が起こる前に整えておくことが、命と尊厳を守る最大の防御策となります。

災害後を生き抜くための備蓄と日常の備え

災害後を生き抜くための備蓄と日常の備え

大地震や台風などの災害が発生した後、電気・水道・ガスといったライフラインが停止する状況は決して珍しくありません。とくに高齢者にとって、インフラの断絶は日常生活を直ちに脅かす深刻な問題です。食事の準備やトイレの使用、服薬、睡眠といったあらゆる行動が制限されるなか、事前の備蓄と工夫された備えが生命線となります。

災害発生から支援が届くまでには数日を要することもあり、自力で3日以上しのげるだけの準備をしておくことが理想とされています。高齢者がいる家庭では、身体の機能や健康状態に応じた対応が求められるため、一般的な防災対策だけでなく、高齢者特有のニーズを加味した備蓄が必要です。

ローリングストックで無理なく備える

非常食や水の備蓄といえば、段ボールに詰めて押入れにしまい込むイメージを持たれがちですが、それでは賞味期限が過ぎてしまい、いざという時に使えないこともあります。そこで注目されているのが「ローリングストック」という考え方です。

ローリングストックとは、普段から消費している食料や日用品を多めに備蓄し、期限が近いものから使いながら新しいものを補充する方法です。高齢者が無理なく備えを続けるには、この方式が最も現実的で負担が少ないといえるでしょう。

災害時にも違和感なく利用できます

たとえば、日頃からよく食べているお粥やインスタントスープ、ゼリー飲料などは、買い物のたびに1~2個多めに購入し、消費と補充を繰り返すことで、災害時にも違和感なく利用できます。日用品も同様で、ティッシュやトイレットペーパー、歯磨き用品などは、常に予備を確保しておくことで安心です。

高齢者向けに必要な備蓄リスト

  1. 食品類
    やわらかいお粥、レトルトのおかず、ゼリーやペースト状の食事、介護食
  2. 飲料
    水(1日3リットルを目安)、お茶、野菜ジュース、経口補水液
  3. 衛生用品
    ウェットティッシュ、簡易トイレ、おしりふき、ラップ、ゴミ袋、紙皿
  4. 生活必需品
    懐中電灯、電池、携帯ラジオ、カセットコンロとガスボンベ
  5. 医療用品
    常備薬、おくすり手帳、血圧計、マスク、感染予防グッズ
  6. その他
    補聴器用電池、入れ歯洗浄剤、紙おむつ、介護用マット

これらの物品をリュックやキャリーケースにまとめ、取り出しやすい場所に保管しておくことが重要です。非常用持ち出し袋とは別に、自宅待機用の備蓄として数日分は揃えておきましょう。

災害後のストレスに備える工夫も必要

災害後の生活は物理的な問題だけでなく、心理的な不安やストレスとの闘いでもあります。特に高齢者は環境の変化に対して敏感で、不安定な生活によって認知機能が低下したり、うつ状態になることもあります。

そのため、いつも使っている物や習慣に近い形で過ごせる工夫も取り入れましょう。たとえば、普段飲んでいるお茶やお気に入りの毛布、ラジオで慣れ親しんだ音楽を流すなど、環境に安心感を与える物があると精神的安定につながります。

備蓄を「見える化」して継続的に管理

備蓄を「見える化」して継続的に管理

高齢者本人だけでなく、家族や支援者も一緒に備蓄の内容を「見える化」して管理しておくと安心です。表やチェックリストにまとめて冷蔵庫に貼る、スマホで撮影して記録するなど、把握しやすい方法を取りましょう。

また、訪問介護や地域包括支援センターの職員など外部の支援者とも、どこに何が保管されているか共有しておくと、災害時の混乱を最小限に抑えられます。

備蓄は「しているつもり」では命を守れません。日々の生活に自然に組み込み、継続的に見直し、更新することが最も現実的で確実な備えです。年齢や体調に合わせてカスタマイズした防災体制が、高齢者の「その後の命」を支えます。

家族や近隣との連携が防災の鍵となる理由

家族や近隣との連携が防災の鍵

どれだけ備蓄や避難準備を万全にしていても、災害時に孤立してしまっては助かる命も助からないかもしれません。特に高齢者にとっては、自力での避難や判断が難しくなる状況も多く、誰かの支援を受けられる環境が重要です。防災の最前線は、行政やインフラではなく、もっと身近なところにあります。それが「家族」と「地域」です。

高齢者が災害に直面したときに直ちに支援を受けられるかどうかは、日頃から築いている人間関係に大きく左右されます。近隣の人との挨拶やちょっとした会話が、いざという時には「声をかけてもらえる存在」へとつながります。逆に言えば、どれだけ防災マニュアルを用意していても、地域における孤立状態では、その内容を実行すること自体が困難になるのです。

「助け合える関係」を平時からつくっておく

近所の人と防災について会話を交わしたことがあるでしょうか?どこに避難するのか、誰が一人暮らしなのか、普段はどのような生活リズムなのか――こうした情報が共有されていれば、災害時にその人を支援するための行動が自然と起こります。

特に以下のような取り組みは、高齢者の安否確認や支援に効果的です。

  1. 日常的なあいさつや声かけ
  2. 自治会や町内会への参加
  3. 近所で定期的に開催される防災訓練や防災イベントへの参加
  4. 高齢者の住まいがどこかを地域で把握しておく
  5. 災害時に誰が訪問・確認を担当するか事前に話し合っておく

こうした関係性は、災害時に自然と「支援する側」と「支援される側」が成立する土壌となります。

離れて暮らす家族ができること

別居している高齢の親がいる場合、災害時の安否が心配になるのは当然です。だからこそ、家族同士の連携も防災においては重要な要素です。特に意識しておきたいのが、平時からのコミュニケーションです。

以下は、離れて暮らす家族ができる防災連携の一例です。

  1. 帰省時に自宅の家具配置や避難経路を一緒に確認
  2. 非常用持ち出し袋や備蓄品の中身を一緒に見直す
  3. 避難所の場所やルートを一緒に歩いて確認する
  4. 緊急連絡先を紙に書いて目立つ場所に掲示
  5. 民生委員や近隣住民に連絡先を伝えておく

また、電話やスマホが使えない状況も想定し、多様な連絡手段の確保も必要です。シニア向けスマホや緊急ボタン付き端末を導入しておくと、連絡がつきにくい災害時にも安否確認がしやすくなります。

地域包括支援センターや民生委員との連携

高齢者の孤立を防ぐうえで、地域の支援ネットワークとの接点を持っておくことは極めて重要です。地域包括支援センターは、介護や福祉だけでなく、防災面でも高齢者に関する情報を把握している重要な機関です。日頃から連絡を取り合っておくことで、災害時の支援体制にもスムーズに移行できます。

また、民生委員は高齢者世帯を定期的に訪問したり、地域の状況を把握している立場にあり、自治体や福祉団体との橋渡し役として活躍しています。必要であれば、自宅の場所や緊急時の対応について相談しておきましょう。

 

高齢者が被災したとき、孤立を防ぐ最大の防御は「つながり」です。日常の些細な会話や、ほんの少しの声掛けが、大きな助けになります。防災は個人の努力だけでなく、支え合う社会の中でこそ機能するものです。自分も、誰かの防災を支える一員であるという意識を持つこと。それが、地域全体のレジリエンスを高める第一歩となります。

正しい知識と習慣で高める高齢者の防災意識

災害はいつ起こるか予測できないからこそ、普段からの意識と行動が重要です。高齢者にとって、防災への取り組みは体力や判断力の衰えもあってハードルが高く感じられがちですが、それでも命を守るために必要なことは数多くあります。そして、それらの対策は決して難しいものばかりではなく、「知ること」そして「続けること」から始められます。

正しい知識と習慣で高める高齢者の防災意識

まず重要なのが、防災に関する正確な情報の取得です。テレビやラジオ、スマートフォンの通知機能、自治体の広報紙や地域の掲示板などを通じて、災害警報や避難情報をいち早く知ることが求められます。特に高齢者はインターネットよりも紙媒体や口頭での情報伝達に依存しているケースが多いため、家族や近隣住民がその補助を担うことが望まれます。

次に大切なのが、習慣化された備えです。災害対策は一度準備すれば終わりではなく、季節の変化や体調の変化に合わせて見直すことが必要です。たとえば、薬の内容が変わったときには非常用持ち出し袋に反映させる、寒暖差によって必要な衣類を入れ替える、賞味期限が近づいた食品は日常で使って補充するなど、暮らしに溶け込む備えが理想です。

正しい知識と習慣で高める高齢者の防災意識

そして、最も効果的に防災意識を高める方法のひとつが、防災訓練への参加です。消防法に基づいて実施される訓練や自治体・町内会主催の避難シミュレーションなどに参加することで、自分がどのような行動をすればよいのかを具体的に体験できます。また、他の住民と顔を合わせることで、災害時に支え合える関係を築くことにもつながります。

高齢者施設やデイサービスでは、定期的な避難訓練が義務付けられており、職員による誘導のもと安全に実施されます。しかし、自宅で生活している高齢者の場合は、自主的な訓練や家族の協力が必要です。たとえば、家の中で地震が起きたことを想定して「どこに身を隠すか」「どうやって玄関まで移動するか」を話し合うだけでも、防災意識は格段に高まります。

また、避難訓練は年に一度きりではなく、定期的に繰り返すことが重要です。1回では覚えられなかったルートや動作も、繰り返すうちに自然と身につきます。訓練は「本番」を前提にして行うものですが、楽しさや参加しやすさも意識して取り入れると、より多くの高齢者が積極的になれるはずです。

防災は「完璧にやらなければ意味がない」というものではありません。小さなことでもできることから始め、継続して取り組むことが最も大切です。「非常用袋を一緒に準備してみる」「避難所の場所だけでも確認する」「隣の家の人と雑談をする」――こうした行動の積み重ねが、災害時の安心へとつながります。

そして最後に、防災とは“自分の命を守るため”だけでなく、“周囲の誰かを守るため”でもあるという意識を持つことが、高齢者の生きる力や社会とのつながりを育てます。「もしも」のときに備えることは、「今」を大切に生きる姿勢そのもの。自分の人生を守る選択として、防災を日常に組み込んでいきましょう。

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